これまで、超好熱性アーキア膜脂質の一つであるC25アーキア膜脂質の生合成経路の全容を解明し、さらに同脂質による細胞膜の強化が可能であるかを検討するべく、同脂質を生産する大腸菌株を構築した。しかし、同株のアーキア膜脂質の生産量は微量であり、同脂質の生産が大腸菌に与える影響は観察できていなかった。そこで、今年度は昨年度に引き続き、C25アーキア膜脂質の大腸菌での生産量の向上を目的として、大腸菌におけるイソプレノイド生産の強化に引き続き取り組んだ。昨年度は、大腸菌由来のプレノールキナーゼ、及びメタン生成菌由来のイソプレノールリン酸キナーゼを大腸菌で過剰発現させることで、プレノール・イソプレノール添加培地において、大腸菌のイソプレノイド生産を大幅に向上させることに成功した。この結果を受けて、今年度は上記の遺伝子とともに、非還元型C25アーキア膜脂質生合成経路遺伝子群を組み込んだプラスミドを大腸菌に導入した。その結果、同大腸菌株の細胞膜に占める非還元型C25アーキア膜脂質の割合を約11%まで向上させることに成功した。そこで次に、同アーキア膜脂質の生産によって大腸菌細胞膜が強化されるかを検証するべく、同大腸菌株の耐熱性や有機溶媒耐性を調査した。その結果、同株の耐熱性は非還元型C25アーキア膜脂質非生産株と比べてほとんど差は見られなかった。一方、1-ブタノールなどのいくつかの有機溶媒については、その耐性が向上している可能性が示唆された。また、蛍光色素を用いた細胞膜透過性試験では、1-ブタノールによって引き起こされる大腸菌細胞膜の透過性上昇は非還元型C25アーキア膜脂質生産によって抑制されていることを示した。
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