マッチングの理論は、人と人、あるいは人と組織を適材適所にマッチさせる方法を模索することを目指す。マッチング結果の平等性と効率性、さらには中央集権的なマッチングシステムに参加することの安全性を主に検討していく。 本研究では、組織側が人々の多様性を重視するような優先順位を持つ場合において、平等性、効率性、安全性の関係を明らかにすることを目指している。人々の多様性を重視する優先順位とは、例えば、移民の受け入れに際して (1) 高学歴か低学歴か、(2) 老年か若年かなど、複数の基準でもって構築される優先順位のことである。 本年度は、公立学校に生徒を割り当てる「学校選択制」の文脈で、主に理論研究を行った。学校選択制では、学校が持つ優先順位には同順位の生徒が含まれる。これは、優先順位の決定にあたっては、学校からの距離や、兄弟姉妹がすでに入学しているかといったわずかな基準で生徒の優先度合いがはかられるからである。このように、同順位の生徒を許容しながら多様性を重視するより一般的な優先順位のもとで得られた結果は以下の通りである。(1) 平等なマッチングが存在するいかなる優先順位のもとでも、平等なマッチングはあるメカニズムのナッシュ均衡で到達可能である。(2) 平等なマッチングの中で効率的なものに絞った場合、そのようなマッチングをメカニズムのナッシュ均衡で到達することはほぼ不可能である。 これらの結果は、平等なマッチングにいかなるインセンティブのもとで到達できるかという点において、既存研究とは一線を画する結果である。
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