研究課題/領域番号 |
19J21315
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
山田 翔太 長岡技術科学大学, 大学院工学研究科 博士後期課程 エネルギー・環境工学専攻, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 水酸アパタイト / メソポーラスシリカ / ハイブリッド粒子 / ナノ粒子 / バイオマテリアル / 骨補填材料 / 水和層構造 / 界面活性剤 |
研究実績の概要 |
骨欠損を補填し,且つ,周囲組織を早期に再生・治療するためには『生体内の骨と類似した組成を持ち,且つ,周囲組織を活性化しながら組織接合して再生を促す材料』の創製が重要になる.我々のグループでは,骨組織に類似した組成・構造を有し,骨成長因子を変性させずに担持できるメソ多孔質シリカ (MPS)/水酸アパタイト (HAp) 複合ナノ結晶を創製した. 本年度は,フーリエ変換型赤外分光光度計 (FT-IR) とX線回折装置から,ナノ結晶の複合形態について評価し,MPSとHApは縮合反応によりSi-O-Pの結合を介して複合し,シリカ源の一部はHApのリン酸基と置換反応を起こしていると結論付けられた.さらに,ナノ結晶の表面に形成される水和層の構造と,担持された骨成長因子 (アルブミン) の変性度合いの関係性を見出した.具体的に,合成時に添加される両親媒性ブロック共重合体の添加量が増加するにつれ、水和層構造の非対称O-H伸縮振動の成分割合が増加し,対称O-H伸縮振動の成分割合が減少した.非対称O-H伸縮振動の成分割合が低いほど (対称O-H伸縮振動の成分割合が高いほど),ナノ結晶に担持したアルブミンの変性度合いが低下することが判明した.さらに,両親媒性ブロック共重合体の添加により,細胞に取り込まれやすい粒径の単分散なナノ結晶が合成された.また,両親媒性界面活性剤の添加により,細胞に取り込まれやすい粒径 (145 nm) で,変動係数の小さな (4.3 %) 単分散なナノ結晶の合成に成功した.つまり,ナノ結晶を生体内に導入した際,ナノ結晶が速やかに細胞に取り込まれ,変性度合いの低い骨成長因子が放出されるため,骨組織の補填と治療の両立が実現・加速すると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度までにMPS/HAp複合ナノ結晶を合成していたが,複合形態については未解明な点が多かった.そこで,フーリエ変換型赤外分光光度計 (FT-IR) とX線回折装置から,ナノ結晶の複合形態について評価した.その結果から,MPSとHApは縮合反応によりSi-O-Pの結合を介して複合し,シリカ源の一部はHApのリン酸基と置換反応を起こしていると結論付けられた.次にFT-IRスペクトルを用いて,ナノ結晶表面の水和層構造を解析した.具体的に,複合ナノ結晶に水を吸着させ,凍結乾燥後に得られたFT-IRスペクトルのO-H基の吸収帯を波形分離することで,3成分 (不凍水・中間水・自由水) の割合を算出した.その結果,ナノ結晶の表面の水和層の構造は,MPS単体及びHAp単体と比較して,材料表面と強く相互作用する中間水と不凍水の成分割合が高かった.さらに,合成時に使用する両親媒性ブロック共重合体の添加量が増えるにつれて中間水と不凍水の成分割合が減少した.より詳細に水の状態を評価するために,O-H基の吸収帯を5成分に分離したところ,両親媒性ブロック共重合体の添加量が増えるにつれて非対称O-H伸縮振動の成分割合が増加し,対称O-H伸縮振動の成分割合が減少した.このナノ結晶に骨成長因子 (アルブミン) を担持させ,凍結乾燥後にFT-IRスペクトルのアミド (I) バンドを波形分離することで,吸着したアルブミンの変性度合いについて評価した.その結果,水和層構造の内,O-H伸縮振動の対称性が高いほど,吸着したアルブミンの変性が抑制できることを解明した.両親媒性ブロック共重合体はナノ結晶の粒径にも影響し,両親媒性ブロック共重合体を添加することで,細胞に取り込まれやすい粒径 (145 nm) で,変動係数の小さな (4.3 %) 単分散なナノ結晶の合成に成功した.
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今後の研究の推進方策 |
骨芽細胞へ作用する『成長因子』の担持技術開発を行う。MPS/HAp複合ナノ結晶表面への成長因子の担持は,2つの反応により実施する。骨芽細胞のための成長因子として,骨芽細胞の分化や異所性の石灰化を誘導する生理活性物質である『骨形成タンパク質BMP-2』を用いる。先ず,MPSのシリカ源およびメゾ細孔の鋳型 (ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド共重合体) との混合液へ共存させる手法で合成する。他方,メゾ細孔の鋳型を焼成によって除去した後に液相で吸着させる手法も検討する。そして,所属研究室で開発中の魚鱗由来コラーゲンペースト ( Y. Chai, M. Tagaya Mater. Lett. (2018)) へ分散させる。これらの材料系において,成長因子が放出される挙動を見出し,最適化する。つまり、骨芽細胞へ成長因子が取込まれて活性化するプロセスと担持分子の密度を最適化する。
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