研究実績の概要 |
前年度までに,水酸アパタイト (HAp) にケイ酸を含有した粒子 (SiHAp) を創製し,粒子表面にポリエチレングリコール (PEG) の修飾を行うことで,粒子表面の中間水成分割合の増加とコラーゲン (Col) 吸着状態の変化が見られた。 そこで本年度は,SiHAp粒子表面にPEGを複数の濃度で修飾し,水和状態とCol吸着状態の関係性を評価・考察した。PEG修飾量の増加に伴いColとSiHAp粒子の接触を防ぐ中間水の成分割合が減少し,水分子のO-H伸縮振動の非対称性が増加した。さらに,Col吸着状態を水晶振動子マイクロバランス測定装置 (QCM-D, Quartz Crystal Microbalance with Dissipation) にて測定した結果,PEG修飾により,Colの吸着開始から32~34分でエネルギー散逸変化量が劇的に増加し,Col分子同士が架橋反応して生体内で普遍的に存在するColの三重螺旋構造が形成する現象 (フィブリル化) が起きたことが示唆された。また,QCM-Dによる吸着Colの粘弾性物性と,フーリエ変換型赤外分光光度計によるタンパク質二次構造の解析から,水分子のO-H非対称伸縮振動の成分割合の増加に伴うColのフィブリル化の促進が示唆され,SEMによる形態観察から,実際にColのフィブリル化が促進されている様子が観察され,水和層の水分子のO-H伸縮振動の非対称性が増加するにつれて,Colのフィブリル化も促進されるという関係性を見出した。また,PEGを修飾していないSiHAp粒子では,中間水の成分割合が増加し,水分子のO-H対称伸縮振動成分の割合も増加し,フィブリル化が抑制される傾向が見られた。これらの結果から,HAp粒子表面の水和状態がColのフィブリル化にとって重要なパラメータであることを見出した。
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