研究最終年度の2021年度は、前年度までに外熱式ダイヤモンドアンビルセル高温高圧発生装置を用いたその場観察及びラマン分光測定実験法を確立したことで、高温高圧下における水溶液への石英(SiO2)とルチル(TiO2)の溶解特性に関する系統的なデータの取得に成功した。造岩鉱物の主成分である珪酸塩が沈み込み帯流体に溶解するメカニズムを分子レベルの構造から理解するために、最大約750 °C、約1.5 GPa条件でアルカリ性水溶液への石英の溶解度と石英飽和流体のラマンスペクトルを測定した。本研究は、これまで同様の研究でなされなかった溶解度とラマンスペクトルの同時測定に加え、溶存珪酸塩のラマンバンドの詳細な解析を行った。これにより、高温高圧下における純水とアルカリ性水溶液への珪酸塩の溶解特性の違いを示した。また実験結果は中性種やイオンを考慮した熱力学モデルと一致せず、珪酸塩陰イオンや重合種がアルカリ性水溶液への石英の高い溶解度に寄与することを示した。これらに基づき、沈み込み帯深部環境下でアルカリ性流体中に形成する珪酸塩種が特定の金属元素の溶解を促進するメカニズムを提案した。さらに、プレート境界岩中の高圧鉱物脈でしばしば異常濃集が観察されるルチルが沈み込み帯流体に溶解する条件を解明するために、構築したシステムを用いて高温高圧下で多様なナトリウム塩水溶液(Na2CO3、NaHCO3、Na2SO4、NaF水溶液)へのルチル溶解実験を行った。上述の水溶液に対するルチル溶解度は、純水に比べて最大一桁高く、流体のpHまたは錯体を形成する配位子の存在度により制御されることが明らかになった。この結果は、沈み込み帯深部環境で一般的に不動元素とされるチタンが流体を介して移動するメカニズムの理解を前進させる。これらの研究成果の一部は、国内学会で発表を行った他、国際誌に掲載された。
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