研究課題/領域番号 |
19J21321
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
元村 健人 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 古原生代 / 有機炭素同位体比 / 酸化還元状態 |
研究実績の概要 |
本研究は古原生代の地球環境変動,特に海洋の酸化還元状態・炭素循環変化を推定することを目的としている.研究地域はカナダ・ケープスミス帯およびフリンフロン帯とガーナ・ビリミアン帯である.これらの地質帯には古原生代の地層が緑色片岩~角閃岩相程度の変成度で保存されている.またこれまでの研究によりケープスミス帯の地層からは有機炭素同位体比の負のシフトが見出されており,約19億年前に炭素循環変動が起きていた可能性が報告されている. 採用第1年度目には,それぞれの地質帯より得られた陸上掘削コアに含まれる黒色頁岩を対象に有機炭素同位体比分析と主要・微量元素濃度分析を行った.また,フリンフロン帯より得られたコア試料については,砂岩―黒色頁岩層の基盤となる火成岩からジルコンとチタン石を分離し堆積年代の測定を試みた. 有機炭素同位体比分析の結果,ケープスミス帯の分析試料から大きく2度の炭素同位体比変動が確認された.今年度の分析試料として用いた掘削コアは,これまでの研究で有機炭素同位体比変動が見出された地域から10km程度離れた地域から掘削されており,ほぼ同時期の堆積物であると考えられている.そのため少なくとも2度の炭素同位体比変動が起きたことが推測できる.また,超局所的な二次的影響による同位体比変動である可能性も否定できる. そのほか,ガーナから得られたコア試料については有機炭素に乏しく通常の塩酸処理ではうまく分析できないことがわかった.そのため次年度以降はフッ酸を用いた処理を追加で行うことで有機物の濃縮を試みる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採用第1年度目にはハドソン湾東部に浮かぶベルチャー諸島の地質調査を行う予定であったが,先方の都合によりこれを行うことができなかった.しかしそのため,これまでに得られていたコア試料の分析を予定よりも多く行うことができた.さらに研究地域としてガーナ・ビリミアン帯を加え,研究対象年代を拡大した.これにより古原生代に起きた地球史上最大の炭素同位体比正異常イベント(Lomagundi Event)の直前,直後の環境を比較検討することを可能とした. また有機炭素同位体比を用いた検討ではこれまでの研究成果におおよそ整合的なデータが得られており,これまで知られていなかった古原生代の世界規模炭素循環変動を報告できる可能性がある.以上より現在までの進展としてはおおむね順調であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
採用第2年度目には主に窒素同位体比の分析を重点的に行う予定である.分析にはフッ酸を用いて脱ケイ酸塩処理を施した試料を用いる.これまでの研究で海洋酸化還元状態の指標としていた微量金属元素濃度は海洋底の環境に大きく影響を受けるため,海洋表層の酸化還元状態を復元することは難しい.一方で窒素同位体比は海洋表層における酸化還元状態に大きな影響を受ける.したがってこれまでの研究に加え窒素同位体比の分析を行うことで海洋の酸化還元状態断面図が作成できるとともに,大気酸素濃度の変動も復元できる可能性がある.また,窒素同位体比の分析で用いる脱ケイ酸塩処理法は有機物含有量の少ないガーナの試料の有機物濃縮に応用することができる.さらにジルコンのU-Pb年代分析を行い,堆積年代の詳細な制約にも取り組む予定である.
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