体重はエネルギーの消費と摂取とのバランスによって維持されており、このバランスが破綻することで、肥満を始めとする様々な疾患を発症する。世界的に肥満症の患者が急激に増加していること、また肥満は変形性関節症や骨粗鬆症などのリスクファクターとなることなどから、肥満を抑制・治療する画期的な新薬の開発が求められている。 脳視床下部に存在するレプチン受容体陽性神経細胞は、エネルギー代謝調節に極めて重要な役割を担っている。我々はこれまでに、Mitogen-activated protein kinase(MAPK)ファミリーに属するセリン/スレオニンキナーゼExtracellular-signal regulated kinase 5(Erk5)をレプチン受容体陽性細胞で欠損させたマウスが、雌性でのみ耐糖能の悪化及びエネルギー代謝の低下を伴う肥満を呈することを見出した。また、インスリンを腹腔内に投与することで、視床下部神経細胞におけるErk5のリン酸化が有意に上昇していたことから、視床下部神経細胞におけるErk5シグナルはインスリンシグナルの下流にある可能性が示唆されている。最終年度である本年度は、レプチン受容体陽性細胞を含む全身の神経細胞におけるErk5の機能について検討するため、Synapsin1-Creを用いて全身の神経細胞でErk5を欠損させたマウスを作製して観察した。その結果、顕著な表現型は観察されなかった。このことから、詳細な理由は不明であるものの、Erk5が全身のエネルギー代謝調節に与える影響は、神経細胞の種類によって異なることが示唆された。
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