研究課題
昨年度までの研究では、BaSi2太陽電池の新規構造としてワイドギャップn型半導体とのヘテロ接合を検討し、Al doped n+-ZnO/p-BaSi2ヘテロ接合太陽電池の動作を初めて実証した。しかし、実際に達成した変換効率ηは0.04%と、理論値(η = 19.8%)に比べて著しく小さかった。本年度は、電気的シミュレーションを行い、上記実験結果から現行のデバイス構造の問題を理解することを目的とした。電気的シミュレーションは、光学的シミュレーションにより得られた各層の光吸収値に加えて、各層の電気特性やバンド情報を加味し、太陽電池の電気特性を予測する手法である。本研究ではバンドギャップ内に擬似的な欠陥準位を設定し、各層の電気特性が太陽電池特性に与える影響を調べた。計算の結果、ZnO/BaSi2ヘテロ界面に光生成キャリアが蓄積しているとわかった。BaSi2の電子親和力が3.2 eVとZnO(~4.3 eV)に比べて小さいことに起因して、界面に価電子帯オフセットが生じるためである。光生成キャリアの再結合割合は電子密度と正孔密度の積で表されるため、今回のようにキャリアが蓄積する箇所において再結合が生じやすいといえる。界面再結合は、等価回路における並列抵抗の減少や、開放電圧の低下に直結する。実験結果を計算で再現すると、並列抵抗の大きさはおよそ2930 Ωと小さいことがわかった。そこで界面再結合を低減するため、Zn1-xGexO界面層の挿入を検討した。Zn1-xGexOはn型ワイドギャップ半導体で、亜鉛とゲルマニウムの組成比を調節することで電子親和力をBaSi2と同等の3.2 eVに調整が可能である。Zn1-xGexOを挿入できれば、電子と正孔が空間的に分離され、再結合割合は劇的に減少すると予想される。並列抵抗は大きく改善され、従来の2930から10537 Ωまで増加した。
2: おおむね順調に進展している
太陽電池の性能向上を目指す上で、構造のどこに課題が潜んでいるか理解することは非常に重要だが、構造が複雑であればあるほど実態を掴むのは難しい。2020年度に行った電気シミュレーションは、実験のみを用いた研究遂行に比べて試行回数が稼ぎやすく、様々な層の影響を検討できた。その結果、BaSi2太陽電池の改善すべき部分がZnO/BaSi2界面であると明確にできたため、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
これまでのところ、Zn1-xGexO膜の形成には成功しているが、Zn1-xGexO/BaSi2ヘテロ界面付近のBaSi2が酸化していることが軟X線光電子分光測定からわかった。酸化層はキャリア輸送の妨げになるため、界面酸化を抑制すべきである。そこで今後は、酸素を含まない亜鉛とゲルマニウム混晶をターゲット原料とし、界面酸化を抑制することで酸化のないZn1-xGexO/BaSi2界面の形成を目指す予定である。また、異なる材料を用いた界面層挿入においては、隣接材料との相性も重要である。しかし、界面層をBaSi2太陽電池のpn界面に導入する試みはZn1-xGexOが初めてであるため、相性が合わない可能性も大いに考えられる。したがって、Zn1-xGexOに固執することなく、他の好適材料の探索も並行して進める予定である。
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