研究課題/領域番号 |
19J21421
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤原 才也 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 三重項電子 / 動的核偏極(DNP) / 金属有機構造体(MOF) / 核磁気共鳴(NMR) / 磁気共鳴イメージング(MRI) |
研究実績の概要 |
有機分子の光励起三重項電子を用いた動的核偏極法(triplet-DNP)は、温度や磁場によらず項間交差によって生成する電子スピン偏極を核へと移行する手法であり、近年その応用が期待され始めている。 しかし従来のtriplet-DNPは、密な有機結晶に偏極源分子をドープした系が主流であり、得られた核偏極を他の分子に移行し、取り出してプローブとして利用するといった研究は為されておらず、その応用は偏極中性子標的など物理学の分野に留まっていた。 筆者らはこれまでに、硬い結晶構造と様々な分子を収容可能な細孔とを併せ持つ金属有機構造体(MOF)を新たにtriplet-DNPに応用することを検討し、イミダゾール環と亜鉛から構築されるZIF-8について、その骨格の1H核の高偏極化に成功した。しかし、その細孔内にゲスト分子を導入し、MOF骨格から偏極移行を試みたところ、ゲスト分子の固定が不十分であるために効率が非常に低いということが課題となっていた。 そこで本年度は、結晶構造を変化させながら導入されたゲスト分子と強く相互作用するMOFについて新たに検討を行った。当初、合成されたMOFには、核の緩和時間が非常に短いという問題が見られたが、作製条件を最適化しMOF孔内に残存した配位子分子の量を調整したところ、後のtriplet-DNPによる核の高偏極化を行う上で十分な1H核緩和時間を得ることに成功した。 また、作製したMOFに対し偏極源分子を導入することで得られた複合体は、高い光・熱安定性を有しながら三重項電子偏極を生成した。この得られたMOF複合体についてゲスト分子を導入しtriplet-DNPを行ったところ、MOF内にゲスト分子を包摂した状態で1H核の高偏極化とNMR信号の増感が確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、種々のゲスト分子の運動性が強く固定されることが報告されているMOFについて検討した研究を行った。核スピンの緩和時間が本来短いMOFに対し、作製時に細孔内部に存在する配位子の量を調整し、核偏極の保持時間を改善することによって、triplet-DNPへ向け最適化された多孔性材料を開発することができた。細孔内の配位子を適切に除いたMOFは、核偏極の保持時間を維持しながらも偏極源分子やゲスト分子の導入が可能であり、結果としてMOF中にゲスト分子を包摂した状態でtriplet-DNPによる1H核の高偏極化とNMR信号の増感が確認された。以上のことから、本研究の目的である生命現象の解明に繋がる様々な生体分子の室温での高核偏極化とその応用へ向け、概ね順調に研究が進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、種々の配位子、金属種、そしてそれらから成る構造を有するMOFを合成することで核偏極貯蔵空間の設計を行いつつ、最終的には昨年度受入れ研究室に立ち上げ済みであるtriplet-DNP装置を利用して実際にNMR増感を行い、その最適化を検討していく。 本年度は、主にtriplet-DNPにより高偏極化したMOFから包摂した標的分子への核偏極移行の検討を行う。これまでのMOFに関する研究の中で数多く報告されてきた、MOF内に分子を効率的に包摂するための配位子や金属種の設計指針に関する知見を活かし、核偏極移行する上で理想的なMOFへと構造を最適化していく。具体的には、MOF内に構築された核偏極空間内における偏極対象物の運動性やMOFとの相互作用を、既報に基づいたゲスト分子導入に伴う骨格構造変化や配位子修飾による相互作用点の導入などから調整する。さらにその上で、MOF骨格を高核偏極化する上で最も重要な核偏極緩和の抑制とのバランスを取った構造へと最適化することで、MOF骨格からゲスト分子への核偏極移行の実現を目指す。核偏極移行を行うに当たって必要とされるゲストのダイナミクスの固定化や、MOFとの相互作用に関する知見を獲得し、さらにそのための構造設計指針を一般化することで、生命現象の解明に繋がる様々な生体分子の高核偏極化を実現する系への展開を見据える。
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