研究課題
腎疾患患者の血中では数種のD-アミノ酸含量が疾患の進行と関連することが報告されており、バイオマーカー候補として有用性が注目されている。しかし、多種多様な夾雑成分を含む生体試料中で微量にしか存在しないD-アミノ酸を分析することは困難であり、従来の分析法では感度や選択性の問題で定量不能となるD体が数多く存在した。そこで本研究では、高感度選択的三次元高速液体クロマトグラフ法(HPLC)を開発し、腎不全及び心不全を対象としたキラルアミノ酸含量変動の全体像解明、新規診断マーカー探索を行うことを目的とした。2020年度は前年度に開発したアラニン、アスパラギン、セリン、プロリンを対象とする腎疾患特化型三次元HPLC法を用いて腎疾患臨床検体を分析した。慢性腎臓病(CKD)患者の血漿試料25検体を分析した結果、全ての試料で分析対象アミノ酸が他の生体成分と良好に分離され、精密なキラル識別分析が可能であった。既存の腎機能マーカーである推算糸球体濾過量(eGFR)の低下すなわちCKDの進行に伴っていずれのアミノ酸も血中D体含量が増加する傾向が認められた。特にアスパラギンとセリンではアミノ酸総量に対するD体の割合を示す%D値とeGFRとの間に良好な相関関係が認められ、新規腎機能マーカーとしての有用性が示された。また腎疾患特化型三次元HPLC法を基盤としてキラルアミノ酸12種を対象とする網羅的三次元HPLC分析法を開発した。酸性アミノ酸であるアスパラギン酸及びグルタミン酸は前年度に開発したミックスモードカラムを用いて分析法を構築した。各次元における移動相、カラムサイズ等の分析条件を精査し健常人血漿試料に適用した結果、数種のD-アミノ酸が認められ、分析対象アミノ酸12種の一斉光学識別分析が可能であった。
2: おおむね順調に進展している
2020年度は前年度に開発したアラニン、アスパラギン、セリン、プロリンを分析対象とする腎疾患特化型三次元HPLC法を用いて、慢性腎不全(CKD)患者の血漿試料25検体を分析した。高選択的な三次元HPLC法により分析対象アミノ酸は他の生体成分と良好に分離され、全ての検体で夾雑成分による定量妨害を受けることなく微量D-アミノ酸の精密定量が可能であった。新規腎機能マーカーとしての有用性を評価するため既存のマーカーである推算糸球体濾過量(eGFR)との相関を調べた結果、eGFRの低下すなわちCKDの進行に伴って血中D体含量は増加する傾向が認められた。特にアスパラギンとセリンではアミノ酸総量に対するD体の割合を示す%D値がeGFRと良好な相関を示し、今後新規腎機能マーカーとしての利用が期待される。また上記の腎疾患特化型三次元HPLC法を基盤として、臨床的に有用性が指摘されているキラルアミノ酸12種を対象とする網羅的微量分析法を開発した。二次元目の固定相には陰イオン交換カラムを選択したが、酸性アミノ酸であるアスパラギン酸およびグルタミン酸は陰イオン交換カラムでの保持が強く分析が困難であった。そこでアスパラギン酸およびグルタミン酸の分析には前年度に作成したミックスモードカラムを使用した。各次元における移動相、カラムサイズ等の精査・最適化により全対象アミノ酸の光学識別分析を達成し、キラルアミノ酸12種の一斉分析法を構築した。構築したシステムを健常人血漿試料に適用した結果、対象アミノ酸は他の共存成分から良好に分離され、アラニン、アスパラギン、セリン、プロリンのD体が明瞭に認められた。以上から本研究は当初の計画通りに進展していると考えられる。
本年度は腎疾患特化型三次元HPLC法を用いてCKD患者血漿試料を分析し、アミノ酸4種のD体が疾患の進行に伴って増加することを明らかにした。特にアスパラギンとセリンについては良好な相関が認められ、D-アミノ酸の新規腎機能マーカーとしての有用性を示した。またアミノ酸12種を対象とする三次元キラルHPLC法を開発し、健常人血漿試料の分析に適用した。その結果、対象アミノ酸と共存成分との良好な分離が達成され、三次元HPLC法を用いて高選択的かつ網羅的なキラルアミノ酸分析が可能であることを示した。そこで2021年度は、キラルアミノ酸12種を対象とする三次元HPLC法を用いて腎疾患臨床検体の網羅的解析を行い、早期腎機能診断マーカー・疾患鑑別マーカーとしての利用が期待できるアミノ酸の探索を行う。腎疾患特化型三次元HPLC法で分析した25検体に加えて、医薬基盤・健康・栄養研究所との共同研究によりさらに臨床検体を収集し、多検体を用いたキラルアミノ酸スクリーニングを行う。
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