研究課題
B型肝炎ウイルス(HBV)は、感染レセプターであるsodium taurocholate cotransporting polypeptide(NTCP)に吸着後、多段階的な制御機構により細胞内へ侵入すると考えられるがその詳細な機構は不明である。これまでの研究成果として、筆者はHBV進入機構に関与する新たな宿主因子・上皮成長因子受容体(EGFR)がNTCPを介したHBVの進入・内在化に重要であるという知見を得た(Iwamoto M et al., PNAS 2019)。筆者はさらにEGFRのどのような機能がHBV内在化に寄与するかを解析し、EGFRのエンドサイトーシス機構がHBVの内在化に重要であることを明らかにした(Iwamoto M & Saso W et al., J Biol Chem 2020)。これら結果はHBV感染機構の解明に有用な知見をもたらし、新たな抗HBV戦略を開発することにもつながることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
筆者はNTCP吸着後のHBV細胞進入機構の解明に精力的に研究に取り組んでいる。これまで筆者の所属研究チームは、NTCPを介したHBV進入機構に関与する新たな宿主因子としてEGFRを同定し、これがNTCPを介したHBVの内在化を引き起こすことを報告した。筆者はさらにEGFRのどのような機能がHBV内在化に寄与するかを解析した。これまでEGFRが関与する多くのウイルスでは、EGFRの下流シグナルがウイルス細胞進入に寄与することが報告されていたが、HBV感染においては主なEGFR下流シグナルであるMAPK、PI3K、STATを阻害してもほとんど影響が見られなかった。一方、EGFRエンドサイトーシス機構のアダプタータンパクであるAP2A1、EPS15のノックダウンや、エンドサイトーシス能を損なった変異体EGFRの発現によってHBV感染は有意に低下した。以上より、EGFRのエンドサイトーシス機構がHBVの内在化に重要であることが示され、これを報告した。これより未だ明らかでなかったHBV感染におけるEGFRの役割の一端が明らかになったことで、HBV感染機構のさらなる解明が期待される。筆者はさらにsiRNAスクリーニングから、HBV感染に関わると考えられる候補宿主因子としてGタンパク質共役受容体(GPCR)の一種を得ている。本年度までの研究結果として、この因子をノックダウンすると、細胞表面のNTCP発現が低下し、代わりに細胞内で顆粒状に局在する様子が観察されたことから、本因子はNTCPの輸送・局在変化に関わることが示唆された。今後はこのNTCPの局在変化が、上述したEGFRエンドサイトーシス機構を介して行われるかどうかを検討し、本因子が担うNTCP局在制御機序とHBV感染の関係性を明らかにする。以上のように次年度以降の研究の発展性が期待される点で順調に進展したと評価できる。
前年度の研究結果より、HBV進入機構に関与する新たな宿主因子EGFRのエンドサイトーシス機構がNTCPを介したHBVの進入・内在化に重要であるという知見を得た。さらにsiRNAスクリーニングからは、HBV感染に関わると考えられる候補宿主因子としてadhesion型Gタンパク質共役受容体(aGPCR)の一種を得ている。前年度までの研究結果として、この因子をノックダウンすると、細胞表面のNTCP発現が低下し、代わりに細胞内で顆粒状に局在する様子が観察されたことから、本因子はNTCPの輸送・局在変化に関わることが示唆された。本年度はこのaGPCRノックダウンによるNTCPの局在変化が、上述したEGFRエンドサイトーシス機構を介して行われるかどうかを、EGFRおよびNTCPの変異体発現細胞でのHBV感染実験や、EGFRエンドサイトーシスのアダプタータンパク質のノックダウンにより検討し、本因子が担うNTCP局在制御機序とHBV感染の関係性を明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
Proceedings of the National Academy of Sciences
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