研究課題/領域番号 |
19J21462
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
清川 宏暁 山形大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 質感知覚 / 感性情報学 / 心理物理学 |
研究実績の概要 |
1年目は,鏡面ハイライト(以下,ハイライトと呼ぶ)に依存しない低輝度領域由来の光沢感を生起させる画像情報として物体表面に出来る反射成分の高空間周波数成分の明暗の差(輝度エッジ)に着目し,その強度情報と知覚される光沢感の間に因果関係があるかどうかを心理物理学実験から検討した.具体的には,①様々な反射特性を持つ物体画像の高周波成分のコントラストを操作して知覚される光沢感が変化するか,②①が成立するとして,表面の反射像の明瞭さが変わると光沢感操作に最適な空間周波数は変化するのか,を検討した.あわせて,従来研究で輝度エッジの有効性には光沢感のハイライト依存性が関与する可能性が報告されていたため,③高周波成分のコントラストによる光沢感操作は光沢感がハイライトに依存しない場合にのみ有効なのか,についても検討した. 実験から,①高空間周波数のコントラスト操作で光沢感を操作できること,②光沢感操作のための最適な空間周波数が存在し,それは反射像が不明瞭になるにつれて低下すること,そして,③この手法による光沢感操作はハイライトに依存しない光沢感を生み出す刺激のみならず,ハイライトに依存する光沢感を生み出す刺激でも同程度有効であることが明らかになった.これらの結果は視覚系が物体画像の高周波数成分に含まれる情報を手掛かりとして光沢感を知覚していること,そして,その情報は反射像の明瞭さに依存して変化するが,知覚される光沢感がハイライトに依存するかどうかとは無関係に光沢感知覚に寄与していることを示唆している. 以上の結果は,Asia Pacific Conference on Vision 2019,および,2020年日本視覚学会冬季大会において発表された.それに加えて,Vision Science Society 2020においても発表予定である(受理済).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り,鏡面ハイライトに依存しない低輝度領域由来の光沢感知覚に輝度エッジが寄与するかどうかを,エッジの強度情報を操作する画像処理と心理物理学実験を組み合わせた検討を行った.その結果,仮説通りに輝度エッジの強度が光沢感知覚に寄与することを明らかにした.それに加え,本知見から派生した光沢感知覚に対する輝度エッジの周波数特性と物体の反射特性の相互作用に関する仮説について,研究計画に無い新実験を考案し,画像中の物体の反射成分の明瞭さによって光沢感操作に最適な輝度エッジの周波数成分が変化することも明らかにすることができた.これらの成果から,採用第1年度目の研究活動は期待以上の進展があったと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,拡散反射成分しか持たない物体に低輝度領域を付与することで見かけ上の光沢感を生起させることができるかどうかを検討する予定である.この低輝度領域付与のための画像操作に先立って,2次元画像からの形状推定をヒトの知覚に沿う形で行うことが必須となる.しかし,現実のシーンを考えると完全にマットで無彩色な物体と言うのは稀で,元々ある程度の光沢感や透明感などの質感や様々な色を持つ物体がほとんどである.それにも関わらず,それらの質感や色が形状知覚にどのように影響するのかはまだあまり分かっていない.そのため,質感や色の情報が形状知覚に及ぼす影響は,本申請課題にとって明らかにしなければならない根本的な問題と言える.そこで,2年目は,物体の三次元形状知覚に対する色や質感を含む反射成分の影響について検討する.
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