研究課題/領域番号 |
19J21468
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
白井 諒 東京都立大学, 大学院システムデザイン研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | パワーエレクトロニクス / 電磁ノイズ / EMI / CAN / 通信エラー / 電磁環境両立性 / EMC / 符号誤り率 |
研究実績の概要 |
電力変換回路がCAN通信機器にもたらす電磁障害について,前年度までにその発生メカニズムを明らかにし,複数のEMC対策手法を開発した。そこで当該年度では,試験システムのシミュレーションモデルの高精度化や,EMC対策手法の開発を継続し,より実用的なアプローチを見出すことに注力した。 CAN通信に発生するエラーを回避するタイミングシフト制御については,従来,電力変換回路のスイッチングデューティ比が一定の条件で検証を行なっていた。そこで,電力変換回路のスイッチングデューティ比が変化する場合にもエラー回避ができるように,新たな制御手法を開発しその有効性を確認した。 また,電力変換回路に対し適用するタイミングシフト制御と対照的に,CAN通信システム側で電磁障害を抑制可能なデジタル信号処理手法を開発した。CAN通信においてビットエラーが発生するのは,電力変換回路がスイッチングする際に生じる瞬間的なノイズに起因することから,スイッチング時に通信信号を一時的に保留する信号処理を施すことで電磁障害の抑制を可能とする。検証実験では,CAN通信機と電力変換回路の制御FPGAを連携して対策手法を実装し,電力変換回路が動作する高電磁環境下であってもCAN通信にエラーが発生しないことを確認した。 一方で,研究を遂行する中でCAN通信のエラー率評価に課題があることを明らかにした。従来,エラー率の指標として用いていたフレームエラー率は,繰り返し測定を行うと約10%の誤差が発生していた。これは,CAN通信プロトコルの振る舞いによってフレームエラー率が変化するためであると考えられる。そこで,プロトコルの影響を受けずにエラー率の測定が可能な符号誤り率測定システムを製作した。この測定システムでは繰り返し測定の誤差が約0.1%以内であり,CAN通信に発生する電磁障害をより定量的に測定可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初に目標の一つとして据えていた電磁障害の発生メカニズムの解明については概ね完了したことから,本年度はシミュレーションモデルの高精度化や,擬似ノイズ注入システムの開発に取り組んだ。シミュレーションモデルの高精度化では,特に直流バスと通信ケーブルの電磁的な結合のモデル化を中心に検討した。試験システムでは約1メートル長のケーブルを平行に配置することで電磁的にカップリングさせていることから,高精度なシミュレーション結果を得るためには分布定数回路を考慮する必要がある。そこで,適切な分布定数回路モデルの選定や段数について理論的考察を行い,電磁的結合のモデルを決定した。また,これまでに明らかにした電磁障害の発生メカニズムに基づいて,FPGAを用いた擬似ノイズ注入システムを開発した。これにより,実際の電力変換回路を用いずに多くの変換回路の方式および制御手法における電磁障害を再現し,様々な条件でCANに発生するエラー数の傾向分析などが可能となった。 また,CAN通信に発生する電磁障害の対策手法についても取り組んだ。前年度までに基本となる技術を確立していたタイミングシフト制御については,より実用的な制御手法にするために,電力変換回路のスイッチングデューティ比が変化する場合に同様の制御ができない課題について解決を図った。さらに,タイミングシフト手法は電力変換回路の制御性能を低下させる課題に対し,CAN通信システム側に実装可能な対策手法を提案した。CAN通信線に誘起される電磁ノイズが電力変換回路のスイッチングタイミングに一致することから,提案手法は電力変換回路のスイッチング時と同時に通信信号を一時的保持することで,電磁障害の要因となる論理反転を防ぐことができる。 主に以上の研究成果について,国内外の学会やIEEE論文誌で研究発表を行なっていることから概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
電力変換回路がCAN通信に発生させる電磁障害については,その発生メカニズムを概ね解明したことから,他の通信方式についても電磁障害のメカニズムを解明していく所存である。例としてLINやMOST,RS485,Ethernetなど様々な有線通信に発生する電磁障害について,CANとの差異や共通点を明らかにするためである。それらを把握することで,これまでに本研究で開発してきた電磁障害の対策手法について応用の検討が可能になると考える。また,可能であればWiFiやモバイル通信を含む無線通信についても基礎検討を行いたい。無線通信に生じる電磁障害を検討するためには,より高周波電磁ノイズの測定や解析が必要になる見込みであるが,現状の測定システムを応用することで実現できる見通しである。 電磁障害の対策手法については,これまでに開発した手法の実用化に向けた検討進めると同時に,上記の多通信規格での検証を踏まえたより汎用的な対策手法の開発を図りたい。これまでに開発を行なったタイミングシフト制御では,電力変換回路の時間あたりのスイッチング回数や通信速度などに制約がある。そのため,Ethernetや無線通信では適用が困難と想定される。そこで,高周波スイッチング電力変換回路や高速通信規格にも対応する電磁障害の対策手法について検討する。 以上の推進方策に加え,次年度が本研究の最終年度になることから,これまでの研究成果について総合的にまとめ上げ,学会や論文誌への投稿を積極的に行う所存である。
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