研究課題/領域番号 |
19J21533
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 颯人 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ベイツ型擬態 / 遺伝的多型 / 季節性 / 数理モデル |
研究実績の概要 |
ベイツ型擬態は、毒を持たない種(擬態種)が毒を持つ種や味のまずい種(モデル種)に姿を似せることで、捕食を回避する戦略のことである。本研究ではベイツ型擬態の進化・共存メカニズムの解明を目的として、ベイツ型擬態の地理的変異や季節変動に関連するパターンに着目し、数理モデルを用いた理論的予測と野外実証データによる予測の検証を行う。 これまでの研究のなかで、地理的変異や季節変動に関連するパターンを説明する上で、ベイツ型擬態の遺伝的多型(擬態多型)の維持機構の解明が重要であると考えた。ベイツ型擬態を行っているとされる種では、擬態モルフと非擬態モルフが同所的に共存しているようすがしばしば観察され、擬態モルフと非擬態モルフは遺伝的に決定されていることが一部の種で明らかになっている。そこで本年度は、擬態多型の維持機構の解明に取り組んだ。 従来の研究では、負の頻度依存選択によって擬態多型が維持されていると説明してきた。しかし、この従来仮説を積極的に支持する野外証拠や実験データは不足している。そこで本研究では、モデル種と擬態種の出現時期のミスマッチによって擬態多型が維持されているという仮説を新たに提案し、仮説の検証のため集団遺伝モデルの解析および野外出現データの分析を行った。集団遺伝モデルでは、擬態種は多化性であり、季節ごとにモデル種の密度は異なっていると仮定した。解析の結果、ベイツ型擬態で見られるような負の頻度依存性や遺伝構造などを考慮してもなお、モデル種密度の季節変動は擬態多型の維持を促進すると予測された。野外出現データの分析では、ベイツ型擬態とされるアゲハチョウ属10種とそのモデル種を対象に出現時期のミスマッチと擬態多型の有無の関係を調査した。系統関係を考慮した統計解析の結果、モデル種と擬態種の出現時期のミスマッチが大きいほど擬態多型になりやすい傾向が見られ、本研究の仮説を支持した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、ベイツ型擬態の遺伝的多型と季節性に関する仮説を検証するため、集団遺伝モデルの解析と野外データの分析を行った。集団遺伝モデルの解析はおおむね問題なく進行した。雌雄共に擬態モルフを持つと仮定したシンプルな集団遺伝モデルだけでなく、メスだけが擬態モルフを持つと仮定したやや複雑な集団遺伝モデルについても安定性解析を行うことができた。一方で、野外出現データの分析では、分析対象の設定や分析手法の選定のために計画以上に時間を要した。先行研究でベイツ型擬態であると推定されており、系統関係が明らかになっており、さらに野外出現データが豊富な生物種が分析対象として好ましいと考え、結果としてアゲハチョウ属10種を対象とした。また統計分析にあたって系統関係を考慮する必要があったため、先行研究で提案されていた系統関係を考慮したロジスティック回帰分析を採用することとした。
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今後の研究の推進方策 |
これまで行ってきたベイツ型擬態の遺伝的多型と季節性に関する研究を進める。野外出現データを従来の頻度依存選択仮説との比較や緯度に応じた傾向の変化といった観点からより詳細に分析する。野外出現データの分析結果を集団遺伝モデルの解析結果と合わせて論文にまとめ、進化生物学を扱う雑誌に投稿する。 これまでの研究から、ベイツ型擬態の進化には、化性の進化と擬態モルフの進化・出現の間での相互作用が重要である可能性が分かってきた。そこで化性の進化と擬態モルフの進化を同時に考慮した理論モデルの構築及び解析を試み、ベイツ型擬態の一つの進化シナリオの提案を行う。
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