今年度は,1)ラマン分光分析による包有物の密度測定の精度を向上させるために重要な要素を特定するため,光学シミュレーションと長期間にわたる繰り返し測定や,2) 密度測定の確度を向上させるための解析手順の構築や,3)その手法を使って測定したマントル捕獲岩中の流体包有物の密度の鉱物種依存性に弾性変形が与える影響を推定するために必要なMgAl2O4の状態方程式の制約や,4)ホスト鉱物と包有物の間で生じる弾性変形が密度に与える影響の計算を行った. 1)について,先ずは,検出器,分光器,レーザーの性能を考慮に入れ,それらの性能を反映させたCO2のラマンスペクトルを自動生成するモデルの構築を行った.その結果得られたスペクトルを解析し,ピーク位置や強度比の測定精度への影響力が大きなパラメータを特定し,実験的に検証を行った.この成果はJpGU2021年大会で発表した.2)について,ラマン分光分析中のレーザー加熱が包有物の定量分析に与える影響を調査するために,CO2の密度測定を例に,高温高圧実験と天然試料の分析を行った.この成果はJournal of Raman Spectroscopy誌にて出版された.3)について,MgAl2O4の状態方程式を決定するため,MgAl2O4の熱弾性特性を報告した先行研究を網羅的にレビューし,特に異なる文献や手法から得られたデータ間の整合性と,物性に対するinversion degreeの影響に着目して,self-consistentなデータセットを特定した.そして,そのデータセットを利用し,様々な状態方程式でフィッティングを行いMgAl2O4に最適なモデルを提案した.4)について,ホスト鉱物と包有物の状態方程式の非線形性と弾性緩和の影響を考慮し,弾性変形が密度に与える影響を計算した.3)と4)の結果は,国際誌への投稿に向けた初稿が完成し,共著者の確認中である.
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