研究課題/領域番号 |
19J21542
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中西 智也 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 脊髄損傷 / 力調節課題 / 脳再組織化 / Neural efficiency / 上頭頂小葉 / 超適応 |
研究実績の概要 |
本研究は脊髄損傷者・脳血管障害者を対象として、障がい者スポーツを実施することによる運動機能の適応と伴う脳構造・機能の再組織化を明らかにすることを目的としている。当該年度は①障がい者施設等での上肢運動機能計測の実施、②Multimodal MRI計測のプログラム作成および予備実験実施、を計画していた。 ①運動機能計測に関しては、脊髄損傷、脳血管障害、二分脊椎、小児ポリオなどの疾患者60名および健常者15名、計75名を対象とした計測(力調節課題・反応時間課題・二重課題)を実施し、脊髄損傷者において他の下肢障碍者および健常者と比較し、特異的に力調節機能が高いことを明らかにした。 ②MRI計測に関しては、予備実験おとびプログラム作成を早期に完了し、脊髄損傷者および健常者を対象としたMRI計測を行った。脊髄損傷者の脳において、上肢運動中に一次運動野の賦活量が小さく、その背景には上頭頂小葉が肥大し、運動野との機能的結合性が強まっていることを明らかにした。 これらのことから、脊髄損傷者は受傷後に運動を継続することで、疾患由来性可塑的変化および使用依存性可塑的変化の相互作用により脳再組織化が促進され、運動機能が高まりやすい脳状態であることが考えられた。この現象により残存機能が最大化され、受傷前および健常者も超えうることから、超適応(Hyper adaptation)現象の一端であると考えられ、臨床応用や新たな共生社会の構築につながる知見であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
①脊髄損傷者および脳血管障害者を対象とした運動機能計測の実施 複数の障がい者施設へ赴き、実地計測を実施した。具体的には、脊髄損傷、脳血管障害、二分脊椎、小児ポリオなどの疾患者計60名を対象として上肢運動機能計測(力調節課題、反応時間課題、二重課題等)を行った。結果、脊髄損傷者において上肢運動機能(力調節能力)が特異的に高まり、健常者をも超えることを明らかにした。障がい者スポーツにおいて、脊髄損傷者は上肢を巧みに用いて健常者でもなしえないパフォーマンスを発揮することができるが、その能力の一部を定量化することができた。 ②運動機能計測の結果について国際誌へ掲載 運動機能計測の結果は、脊髄損傷者の力調節機能が特異的に高く健常者をも超えていた、という点で新規性が強く、貴重な結果となった。そのため想定していた国内学会ではなく、国際学会にて発表を行った。また、年度初頭に計測を行い、速やかにに論文執筆・投稿を行ったため、年度内に掲載に至ることができた。 ③健常者および脊髄損傷者を対象としたMultimodal MRI計測実施 運動機能計測の進行を早めることができたため、年度途中から次年度に実施予定であった実験を前倒しで開始した。具体的には、健常者および脊髄損傷者を対象として、上肢運動機能計測を行いながらfMRIを撮像し、脳活動を明らかにするものである。また、安静時fMRI、Diffusion tensor image をfMRIと同時に撮像し、脳機能・構造ネットワークレベルでの再編成を明らかにする計測も行った。結果、脊髄損傷者は上肢運動中に一次運動野の賦活量が小さく、その背景には上頭頂小葉が肥大し、運動野との結合性が強まっていることが明らかとなった。この結果は国際学会での発表を行い、さらに、関連した2本の論文執筆・投稿が年度内に完了した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、投稿中の2本の論文についてなるべく早い掲載を目標とする。また、Multimodal MRI計測においては脊髄損傷者を対象とした計測は行ったものの、他の疾患者(切断者や脳性麻痺、視覚障害者などを想定)に対する計測を前倒しで行い、疾患別の適応モデル構築を進めていく。
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