研究課題/領域番号 |
19J21593
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
西村 健太郎 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 低エネルギー有効理論 / QCD相図 / トポロジカル物質 |
研究実績の概要 |
本研究では、強い相互作用の微視的理論であるQCDによって記述される物質の回転とバリオン数化学ポテンシャルに対する相構造を調べた。その結果、臨界角速度以上で回転するバリオン物質の基底状態は、η'中間子のカイラルソリトン格子(CSL)状態と呼ばれる、パリティ対称性が自発的に破れた、回転軸に沿った方向にトポロジカルソリトンが周期的に並んだ結晶状態である。この状態は、以前研究を行った中性π中間子のCSLの類似状態である。一方で、その起源は大きく異なることを見出した。中性π中間子CSLは有限クォーク質量が必要条件であったが、η’中間子の場合、カイラル極限であってもQCDアノマリーと呼ばれる量子効果を起源とする対称性の破れによって、CSL状態が実現する。また、有限クォーク質量の場合でも、詳細な場の配位はカイラル極限と異なるが、パリティが自発的に破れた、回転軸に沿った方向にトポロジカルソリトンが周期的に並んだ結晶状態であることに変更がないことを解析的に示した。さらに、中性π中間子CSLと異なり、η’中間子CSLの場合、アイソスピン数化学ポテンシャルは必要なく、この性質から回転するバリオン物質では、η’中間子CSLが実現する臨界角速度が中性π中間子の場合と比較して小さくなる。特に、将来行われる低エネルギー重イオン衝突実験では、より高密度の回転するバリオン物質が生成すると期待されており、η’中間子CSLの実現が期待できる。特に、カラー超伝導が実現するような高密度領域では、QCDアノマリーの効果が大きく抑制されることで、臨界角速度は低密度に比べ小さくなる。最後に、低密度ハドロン物質と高密度カラー超伝導で実現するη’中間子CSLは、これらを区別する大域的対称性が存在しないことから、二つは連続的に繋がっていると予想した。これは、「クォークハドロン連続性」を回転するQCD物質に拡張したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
一年目の研究計画に対応する「QCDのトポロジーを考慮した回転している高温 QCD 物質の相構造」に関して、有限温度のトポロジカル項の取り扱いが、以前研究を行った有限化学ポテンシャルのトポロジカル項と異なり困難であったために、研究計画を完遂できていない。一方、当初は想定されていなかったが、回転とバリオン数化学ポテンシャルに対するQCD相構造に関して理解を深めることができた。 以上より、研究はやや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
一年目で解析したη'中間子のカイラルソリトン格子状態に対する有限温度効果をQCDの有効模型に基づいて解析する。また、予定している「回転する高温QCD物質のトポロジカル輸送現象」に加えて、今年度明らかになった課題「カイラル渦効果の一般化と相互作用効果」の二つを遂行することで、より系統的にトポロジカル輸送現象の研究を行う。
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