研究課題/領域番号 |
19J21593
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
西村 健太郎 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 低エネルギー有効理論 / QCD相図 / トポロジカル物質 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、相対論的なカイラルフェルミオンで構成されたカイラル物質を回転させると、その渦度の方向にカレントが生じるカイラル渦効果という現象をtorsionという幾何学的な量に基づいて 一般化を行った。Torsionとは時間と空間の並進対称性のゲージ場であるvierbeinに対する場の強さであり、空間の捩れを表したもので結晶転位や回転を表している。それだけでなく、時間並進に対する vierbeinはハミルトニアンに結合しているので、分配関数に現れる温度の非一様性を表しその空間微分であるtorsion は温度勾配を表す。カイラル物質のtorsion全成分に対する線形応答を明らかにするために久保公式を求めた。この久保公式によって平衡状態にあるカイラル物質にtorsionを加えたときのカレントが計算できるようになる。この結果から輸送係数がカレントとエネルギー運動量テンソルの相関関数で決定されることを示した。 次に、カイラル物質の電磁場に対する応答であるカイラル磁気効果や異常ホール効果を統一的に記述する有効作用であるaxion項のtorsion系への一般化を考えた。Torsion に対するカイラル輸送現象を表す久保公式を用いて、Weyl 半金属と呼ばれる相対論的なカイラルフェルミオン系と同じ励起を持つ物質に適用し、温度勾配に対するカイラルな輸送現象の導出を試みた。この際、技術的な困難が生じたために、温度勾配のような局所熱平衡にある系での輸送現象を解析する目的に適したカイラル運動論で解析を行った。カイラル運動論はカイラルフェルミオンの持つトポロジーの寄与を正しく取り込んだ運動論なので、その分布関数を温度勾配がある場合でも求めることができる。現在は温度勾配のある場合の分布関数を求め、粒子数カレントとエネルギーカレントの輸送係数を求めている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
温度勾配に対するカイラルな輸送現象の導出を久保公式から試みた際、温度勾配に対する線形応答は久保公式から得られる寄与以外に、時間反転対称性が破れているWeyl半金属のような系では磁化電流と呼ばれる磁化の回転を補正として加えなくて はならないことが現象論的に先行研究で指摘されていた。しかし、場の理論から磁化補正を正当化することが困難であり、温度勾配が存在するような非平衡系における輸送現象を解析する目的に適したカイラル運動論を用いた手法に方針を転換した。この方法により輸送係数の決定は収束しつつあるために、進捗状況はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はまず昨年度に引き続き、カイラル物質の電磁場に対する応答であるカイラル磁気効果や異常ホール効果を統一的に記 述するトポロジカルな場の理論であるaxion項のtorsion 系への一般化を行う。昨年度は温度勾配の輸送係数を計算していたが、当初考えていた久保公式による輸送係数の決定は技術的な困難により遂行できなかったため、非平衡系でも輸送係数を決定できるカイラル運動論を用いて現在計算をしている。一つ目の研究計画はこの方法で昨年度完遂できなかった粒子数カレントとエネルギー流の輸送係数を決定することである。次に、粒子数カレントはU(1)ゲージ場で有効作用を微分すると、エネルギー流は時空並進のゲージ場であるvierbeinで微分することで得られることから、決定した輸送係数を用いることでこれらの輸送現象を記述する有効作用を計算することで、axion項をtorsion系へ拡張したtorsional axion項を求める。 昨年度出版されたJHEP 07 (2020) 196において、臨界角速度以上で回転するバリオン物質の基底状態は、η'中間子のカイラルソリトン格子状態と呼ばれる、パリティ対称性が自発的に破れた、ソリトンが周期的に並んだ結晶状態になることを示した。本年度は、これらの結果を有限温度系に拡張することを考える。まず、先に行うカイラル渦効果の一般化と相互作用効果の解析に基づいて、有限温度系で現れるη'中間子に対する有効作用を書き下す。次に、昨年度計算したη'中間子のカイラルソリトン格子の臨界温度をQCDの有効模型であるNambu--Jona-Lasinio模型に基づいて決定する。η'中間子のカイラルソリトン格子の実現が期待される重イオン衝突実験で生成するQCD物質は有限温度なので、有限温度効果を調べることは重要である。
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