研究課題/領域番号 |
19J21617
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
増田 亮津 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ウイルス様粒子 / カイコ-バキュロウイルス発現系 / 抗原キャリア / スパイク抗原 |
研究実績の概要 |
本研究は、カイコを利用して高効率な抗原生産を可能なシステムを確立すると共に、ウイルス様粒子(V L P)上に生産した抗原をディスプレイすることで免疫効果の高い次世代型ワクチンを開発する事を最終目的とし、そのために以下の3つの計画に基づき、研究を進めている。 ①ディスプレイ用抗原のカイコでの高効率生産 ②九州大学のカイコ系統ライブラリーを利用したカイコの組換えタンパク質生産性の差異の原因探索 ③タンパク質間のグルタミン残基とリジン残基を架橋する酵素である微生物由来トランスグルタミナーゼ (MTG)を用いた抗原提示VLPワクチン作製 項目①については、豚流行性下痢病ウイルス(PEDV)のスパイク(S)抗原を人工的に三量体化させるため、S抗原の膜外ドメインにコイルドコイル構造をとる鳥の軟骨基質タンパク質(CMP)を融合した所、効率的にカイコ幼虫血清中に分泌される事が分かった。豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)のGP5抗原はカイコの中で多くが不溶性で発現していたため、可溶性を上昇させるコンストラクト設計を行なう予定である。②では、S抗原の発現を九州大学保存のカイコ系統を用いて調べたところ、S抗原の高発現系統と低発現系統が数種類ずつ確認され、系統間にS抗原の生産性の差があることが示された。今後は系統間の生産性の違いの要因についてより詳細を調べる予定である。③ではMTGの認識配列であるKtag及びQtagをS1抗原・三量体化S抗原及び豚サーコウイルス2型(PCV2)のVLPにそれぞれ導入し、VLP上へのMTGによる抗原ディスプレイを行ったところ、架橋産物は確認されたが、架橋による抗原とVLPの連鎖反応が起きているような現象が見られた。これはMTGに非特異に反応している配列が存在していると考えられるため、この連鎖反応の原因となっている配列を探し出す予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①PEDVのスパイク(S)抗原の全長、膜外ドメイン、及びS1ドメインをそれぞれカイコで発現させたところ、全長及び膜外ドメインの分泌効率は悪く、S1ドメインのみでは、比較的カイコ血清への分泌が見られた。そこで分泌と安定した三量体化形成の促進のため、S抗原の膜外ドメイン及びS1ドメインにcoiled coil構造をとる鳥の軟骨基質タンパク質(CMP)を融合したところ、効率的にカイコ幼虫血清中に分泌されることが分かった。PRRSVのGP5抗原についても、全長及び膜外ドメインを発現させたが、カイコ培養細胞では多くが不溶化している事が確認された。 ②難生産性の抗原を効率的に生産する系統を選抜するために、PEDVのS抗原の膜外ドメインを発現する組換えバキュロウイルスを九州大学保存のカイコ系統の内、34系統に感染させた。感染4日目の発現したS抗原をカイコの血清及び脂肪体でそれぞれ調べたところ、S抗原の比較的発現量の高い系統と低い系統が存在することが確認された。さらに、脂肪体では比較的高い発現が見られたのにもかかわらず、血清中にS抗原をほとんど分泌していない系統などといった特徴的な系統も見つかった。 ③タンパク質のリジン残基とグルタミン残基を架橋する酵素であるMTGには認識配列が存在するが、リジン側の認識配列であるKtagをS1抗原・三量体化S抗原に、同じくグルタミン側の認識配列のQtagを豚サーコウイルス2型(PCV2)のVLPにそれぞれ導入し、VLP上へのMTGによる抗原ディスプレイを行ったところ、抗原とVLPの架橋産物はSDS-PAGEによって確認されたが、架橋による抗原とVLPの連鎖反応が起きているような現象が確認された。これはMTGに非特異に反応して架橋されてしまっている配列が抗原側に存在している事が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
①三量体化したPEDVのS抗原をマウスに接種し、S抗原に対する抗体の生産性をELISAで確認する。さらにマウスの免疫血清を用いてPEDVを中和可能な抗体の産生量を調べ、抗原のワクチンとしての有用性を評価する。PRRSVに関してはGP5抗原に対して可溶化・分泌促進タグを連結させて発現させることで不溶性の状態から可溶性・分泌性を高めることが可能かを試みる。
②1年目の系統スクリーニングによって絞り込んだPEDVのS抗原の高発現系統・低発現系統を利用して、それらの系統間の違いが、組換えバキュロウイルスの感染から増殖、mRNAへの転写、目的のタンパク質発現と局在、分泌までのそれぞれの段階のどこが異なるために生じているのかを順を追って調査し、タンパク質生産性の違いを生む段階の絞り込みを試みる。また、それらの系統において組換えバキュロウイルスに感染させた時の遺伝子の発現動態の違いをRNA-seqで調べる事で、生産性の違いの要因として働いている遺伝子やそのネットワークを絞り込む。
③PEDVのS抗原とPRRSVのGP5抗原の2種類の抗原提示VLPの作製を引き続き検討するが、VLP上に抗原をディスプレイする方法として現在行っている、微生物由来トランスグルタミナーゼを利用したQtag及びKtagのタンパク質間架橋では連鎖反応の原因となっている抗原側の配列を探し出すと共に、MTGを利用する方法以外に有用なタンパク質間架橋及び相互作用タグなどを利用してみる事でより効率の良いディスプレイ方法を模索する。また土台となるVLPに関してもPCV2以外にもカイコで効率的に生産可能なウイルスのVLPも抗原提示に利用してみる予定である。抗原提示VLPが作製できれば、免疫実験を行い、抗原のみを接種した時との抗体誘導能や誘導した抗体のウイルスに対する中和能などを評価する予定である。
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