CRISPR/Cas9 システムは小分子RNA (gRNA) とCas9 ヌクレアーゼの複合体により任意の標的DNAを切断する。ただし、標的配列の直下流には 5’-NGG-3’配列が必要で、これが標的配列の制約となる。近年、より任意の配列を標的とした遺伝子改変を実現するために、5’-NGN-3’を認識できる改変型Cas9の開発に携わり、共著者として報告した。そこで本研究では、この改変型Cas9を用いて、従来の野生型Cas9ではアクセスできなかったハンチントン病の過伸長CAGリピート配列の修復法開発に取り組んだ。 まず、ES細胞・受精卵における、改変型Cas9のNG(A/T/C)-PAMを有する標的配列の切断効率を調べた。その結果、ES細胞においては、改変型Cas9は野生型Cas9よりも効率よくNG(A/T/C)-PAMを有する標的ゲノムDNAを切断した。しかしながら、受精卵においては、改変Cas9を使用しても、NG(A/T/C)-PAMを有する標的ゲノムDNAは殆ど切断されなかった。 続いて、ハンチントン病のモデルマウスからES細胞を樹立し、Htt遺伝子のリピート配列に対して特異的な4種類のgRNAをそれぞれ導入した。その結果、gRNA-s2を導入した群において、10%程度のクローンでリピート配列が遺伝子破壊を伴わずに短縮 (治療) された。治療効果を評価するために、ES細胞から分化誘導した神経細胞を解析したところ、治療群では病状が見られなくなっていた。さらに、治療ES細胞からマウスを復元し個体レベルでも解析したところ、加齢してもハンチントン病が発症しないことが確かめられた。ここまでの結果をまとめて報告済みである(Oura et al. Commun Biol. 2021)。
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