本研究では個体サイズが小さく発生観察に適したカタユウレイボヤを用いて尾芽胚期に見られるCa2+振動をする細胞と遊泳運動との関係を明らかにすることを目的としている。前年度までの結果から、Ca2+振動をする細胞は1対の運動神経細胞(MN2)であり、MN2は遊泳前の自発運動を引き起こすことを明らかにした。MN2は交互の運動(遊泳運動)を引き起こす神経回路(中枢パターン生成器、CPG)の一部であることから、CPGの発生中の活動を見ることができていると考えられ、これらの結果を論文誌に発表することを本年度の目的とした。論文投稿を進める中、Science誌に査読され、その結果、修正をしたうえでScience Advances誌に投稿することを勧められた。査読の結果、本文の大幅な修正と、実験ではMN2と筋肉が観察をしている時期に神経筋接合部(NMJ)を形成しているか、またMN2の活動のみで筋肉収縮は見られるか(MN2の必要十分性)の検証を求められた。本文の修正ではホヤ幼生期のコネクトームと比較をしてMN2が後期でも、遊泳運動回路の中で主要な役割を果たすことを述べた。また実験ではαブンガロトキシンやnAChRサブユニットを用いて神経筋接合部を可視化したり、チャネルロドプシンを用いてMN2の刺激によって筋肉収縮が生じることを観察して、MN2がNMJを形成しており、筋肉収縮に必要十分であることを示唆した。これらの結果を踏まえて再度、論文を投稿したところ、論文が受理された。またこれらの成果は新学術領域研究「シンギュラリティ生物学」第6回領域会議にてポスター発表した。
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