研究課題/領域番号 |
19J21669
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
杉浦 健一 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | 超新星爆発 / ニュートリノ / 中性子星 / ミューオン / 弱い相互作用 |
研究実績の概要 |
大質量星はその最後に重力崩壊柄超新星爆発を起こす.その最中に形成される原子中性子星からは大量のニュートリノが放出されると考えられており,近い将来観測できると考えられている.観測されるニュートリノ光度やスペクトルを定量的に予測するためには,原子中性子星中でのニュートリノ輸送を正確に評価する必要があり,ニュートリノ-物質間の反応率を正確に評価することが重要である.2019年度には,主にニュートリノ物質相互作用の関して二つの研究を行った. 一つは,ニュートリノ反応率を,簡単化のために頻繁に行われる近似をしないで,正確に計算することである.具体的には,ニュートリノと核子(陽子及び中性子)の反応において,核子の弱磁気を考慮した上で,核子の弾性散乱の仮定を排し,非弾性散乱も考慮に入れることで,ニュートリノシグナルにどのような影響が現れるのかを調べた.弱磁気および非弾性散乱の効果は,合計のニュートリノ反応率を下げることにつながり,結果として放出されるニュートリノエネルギーを下げる働きを持つことが判明した. 二つ目は,ミューオンとニュートリノの反応率の計算である.ミューオンはその静止質量が典型的な超新星の温度よりも十分大きいため,存在を無視されてきた.しかし近年,超新星内部のような高温高圧環境下においては,ミューオンが存在している可能性が指摘されている.そこで,従来無視されてきたミューオン による弱い相互作用を全て評価し,その反応がどれくらい重要かを調べた.結果,ミューオン の存在は,ニュートリノが原子中性子星を抜け出すのを阻害する働きをし,ミューオン を無視した場合と比べて.原子中性子星の冷却速度を遅くする働きがあることが判明した. これらの研究は,今後の超新星ニュートリノ観測から,超新星内部における物理を定量的に解き明かすために重要な意義を持っている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,原子中性子星の冷却時に放出されるニュートリノの光度やスペクトルの定量的な評価を行うために,ニュートリノ物質間の弱い相互作用に関して研究を行った.研究実績概要の通り,大きく分けての二つの研究を行った. 一つ目は,当初の予定通り,場の理論に基づき,近似的もしくは無視されていた効果を正確に取り込んだ弱い相互作用の反応率計算を行った.これらの影響の評価は終了しており,ニュートリノシグナル,特に放出されるニュートリノ温度が低くなることを突き止めた.この結果は学会等での発表も行っており,当初の計画通り,順調に進んでいると評価できる. 二つ目は,研究計画当初は予期していなかったミューオンとニュートリノの弱い相互作用についても研究を行った.数あるニュートリノと物質の弱い相互作用のうち,ミューオン崩壊反応およびその逆反応と,電子型ミューオン型のフレーバーを入れ替えるレプトン反応が重要であることを突き止めた.この研究も当初の予定にはないが,十分な進捗があり,期待以上に進んでいると言える. 当初の予定では,これらの結果を,原子中性子星の冷却計算コードに取り込み,数値計算を通してPNSの長時間冷却計算を行い,ニュートリノシグナルへの影響を定量的に評価し,まとめていくことも含まれていたが,ミューオン生成に付随して,ニュートリノフレーバーを3種類から6種類に増やす必要が生じたため,コードの大幅な改善が必要となり,開発は現在進行中である. ニュートリノ相互作用に関する研究はいずれも学会や国際研究会において発表しており,近日中に論文として投稿する予定である.以上の進捗状況を総じて評価すると,本研究課題は順調に進展していると考える.
|
今後の研究の推進方策 |
まず可及的速やかに行うことは,研究進捗でも言及したPNS冷却計算コードの開発である.ニュートリノフレーバーの数を増やすのみならず,精密化したニュートリノ反応率を冷却計算コードに取り込むことが必要である.ニュートリノ反応率は冷却計算内で毎時刻計算することは計算コストがかさむために現実的ではなく,通常反応率を熱力学量に対してテーブル化して取り込まれる.そこで,まずは各ニュートリノ反応のテーブルを作成することが目標となる.目標を達成し,PNS冷却計算コードが完成した暁には,ミューオン入りのPNS長時間冷却計算が達成される.これらの結果は,論文としてまとめるとともに,学会や国際研究会で発表予定である. ニュートリノ反応の精密化のみならず,高密度核物質ならではの,核子多体系としての効果はPNS冷却に影響を与える可能性があることが知られている.多体効果とは,核子が核力同士で強く相互作用している系において,核子の密度相関等の反応率に影響する物理量が補正される効果である.高温高密度下では乱雑位相近似 (RPA) が有効であることが知られており,これらがニュートリノシグナルに及ぼす影響も調べていく. また,核子について,特定の密度温度下では,パスタ相と呼ばれる特殊なハドロン相が存在することが知られている.パスタ相における,ニュートリノのコヒーレント散乱は原始中性子星内のニュートリノ輸送に影響を及ぼす可能性がある.これを数計算を用いてニュートリノシグナルへの影響を調べたものはないので,これに取り組む. また同時進行で,対流が中性子星内部で起きている場合のニュートリノシグナルに関しても,混合距離理論を基礎としたエネルギー輸送の定式化を用いることで,より現実的な原始中性子星冷却理論を構築していく.
|