研究課題/領域番号 |
19J21707
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
天道 尚吾 広島大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 化学反応速度論 / 衝突素過程 |
研究実績の概要 |
申請者は,気相原子・分子を対象として電子励起種や振動励起種の化学反応速度と動力学的挙動に着目して研究を行ってきた。昨年度,2光子紫外光(UV)励起後の赤外(IR)遷移後に生じる真空紫外光(VUV)を観測する独自の酸素原子O(2p4 3P)検出法である2P-VUVLIEM法を確立し報告した。化学種の右に記入した記号(2p4 3P)は原子の電子配置と電子状態を表わす項記号である。本年度は2P-VUVLIEM法を用いて電子励起硫黄原子S(3p34p 3P)のヘリウム原子Heによる消光速度定数を決定し,IR発光とHeによる消光の分岐比を報告した。分岐比の決定は速度論研究の中心課題の1つであり衝突素過程の解明に重要である。 臭素原子Brの消光過程の解明を目指して2P-VUVLIEM法をBrに適用した。Brは,許容な2光子遷移(4p45p ← 4p5)が25と数多く存在するため,遷移効率を明らかにする実験を遂行した。全許容遷移のうち19の許容遷移について励起スペクトルの観測に成功した。Brは,励起状態間遷移の発光がOやSに比べて短波長である可視(VIS)・赤外領域に存在するため比較的遷移効率がよいことに着目し,4p45p → 4p45s発光検出(2P-IRLIEM)にもとづく励起スペクトルを測定し,VIS・IR発光を分光測定した。以上の2P-VUVLIEM法および2P-IRLIEM法によるBrの観測結果をもとに,観測不可能な遷移は2光子吸収断面積が他の遷移に比べて非常に小さいと結論づけた。本研究は,2光子遷移後の11ある観測可能な励起状態について,He原子,アルゴン原子Arや窒素分子N2などによる消光速度定数の決定および比較といった消光過程の電子状態の違いにもとづく考察に有用であり,衝突素過程の電子状態依存性の解明が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要で述べた新規な検出法2P-VUVLIEMを確立することで,酸素原子O,硫黄原子S,塩素原子Cl,臭素原子Brといった数多くの原子種を検出できるようになったことで,様々な原子の電子励起状態の消光過程や電子基底状態の素反応を対象とした研究ができる環境が整った。一方で,来年度より着手予定の内殻励起反応における電子移動過程の解明を目的とした研究については,対象とする化合物の合成段階であるため,区分(3)を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度より新たに内殻励起反応を対象として速度論および動力学に焦点を当てた研究を行う。内殻励起の励起光として用いられる軟X線は,分子内で位置選択的に原子を内殻励起できる。内殻励起で生じる電荷は,オージエ過程を経て(1)イオン解離(2)系内のエネルギー緩和の2つの競合過程を引き起こす。(1)の過程に着目し選択的イオン解離を対象とした研究は多くあるが,イオン解離の妨げとなる(2)の過程に着目した研究報告は少なくその詳細は解明されていない。本研究では軟X線によりエステル基(-COO-)やその他の官能基の内殻励起で局所的に生じた電荷が,金Auナノ粒子および2つの芳香族基(Ph1, Ph2)からなる分子サイズの並列回路モデル(Au-Ph1-COO-Ph2-Au)内をどのように移動するかに着目し,電子分光およびイオン分光の両側面から電子移動過程を明らかにする。
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