研究課題/領域番号 |
19J21763
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
須江 祐貴 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ミューオンg-2 / J-PARC E34実験 / Belle II実験 |
研究実績の概要 |
3σの有意度で乖離が見られているミューオン異常磁気能率(g-2)の実験値と理論値の系統誤差削減による新物理探索感度向上を目指し、J-PARC E34実験における加速器技術開発とBelle II実験における電子陽電子衝突でのハドロン生成断面積測定という2つの実験的なアプローチを試みる。 本研究ではJ-PARC E34実験での技術開発として、指向性の高いミューオンビーム作り出すためのミューオン線形加速器の低速部ビームモニター開発を行っている。モニターは低速ミューオンビームの縦方向分布を測定するため、検出部のマイクロチャンネルプレート(MCP)と高速読み出し回路を組み合わせたものである。波長400 nmのピコパルスレーザーをMCP表面に直接照射し、表面から放出される光電子を信号源とした時間分解能評価用テストベンチを構築することにより、このモニターが65ps以上の時間分解能を達成していることを確認することができた。 Belle II 実験初期で十分な統量を得ることができ、ハドロン真空分極項に2番目に主要な影響を与えているe+e-→π+π-π0(γ)チャンネルの生成断面積測定に着目し研究を進めている。特定の背景事象のvetoによって信号事象のデータが取得されない、という状態がどの程度発生するかどうかを確認するため、実験早期のデータを用いて評価を行った。その結果、およそ2割の事象で損失が発生することが判明した。このような信号事象は現在では取得されているが、イベントレートの向上により近い将来取得されなくなってしまうことを明らかにした。並行して段階的に高輝度化していくBelle II実験の高効率かつ安定的なデータ取得に向けた技術開発として、トリガーモジュールの開発を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
J-PARC E34実験の加速器開発に関してはミューオンビームモニタの開発として当初の目標として数十psの時間分解能を達成しているところまでは確認できた。この精度の時間分解能評価を行うためのテストベンチ構築を予定していたが、電子源を用いるのではなくレーザーを直接照射する、という手法を用いることで大きく短縮できた。この成果は国際会議で発表したのちに、ここまでのモニター開発をまとめて学術論文として発表した。この学術論文での報告をもって本研究における加速器技術開発の一区切りとした。 Belle II実験でのハドロン生成断面積測定においては、実験早期に確認しなければならない項目である、特定のトリガーvetoによる信号事象損失の評価を行った。本格的な解析に関しては当初の予定に対して遅れが出ている。また、データ取得に関しては当初想定していた統計量より少なくなることが見込まれているものの、標的としているe+e-→π+π-π0(γ)チャンネルの解析においては十分な統計量が得られると考えられる。 Belle II実験のトリガーモジュール開発は、シミュレーションをもとにした新しいアルゴリズムの実現可能性評価、実際のFPGAロジックの基礎開発と疑似入力を用いた基礎動作検証まで完了し順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
Belle II実験でのハドロン生成断面積測定に関して対象のe+e-→π+π-π0(γ)チャンネルが終状態にπ0由来の高運動量光子を含んでいるために、特定のトリガーvetoによる事象の損失が発生しうることが判明した。今後の高輝度化によるvetoの導入でそれらのイベントが損失される事態を回避する必要がある。そこで、飛跡検出器によるトリガー飛跡と電磁カロリーメータのトリガークラスターを組み合わせたトリガーメニューを用いた場合における、信号事象の回復量の評価と導入の検討を来年度早期に行う。このトリガーvetoによる事象の損失に関しては、現在解析を進めているチャンネル以外のチャンネルについても発生しうるため、同様の損失が発生していないかの評価を行い、必要があれば対策を検討する。解析に関しては今年度中に暫定的な結果を出すことを目標として、事象選別条件の最適化と各種検出効率の評価手法を確立する。 Belle II実験のトリガー開発については、今年度開発したイベント時刻検出モジュールを来年度前半に試験的にトリガーシステムに組み込む。実際の宇宙線データや衝突データを用いたFPGAロジックのデバッグを行う。最終的に各種パラメータの最適化と性能評価を行い、秋の物理データ取得からの本格的な運用を目指す。
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