本研究では、4σ以上の有意度での乖離が確認されているミューオン異常磁気能率(g-2)の実験値と理論値の系統誤差削減による新物理探索感度向上を目指し、J-PARC E34実験における加速器技術開発とBelle II実験における電子陽電子衝突でのハドロン生成断面積測定という2つの実験的なアプローチを試みる。ハドロン生成断面積測定においては、Belle II 実験初期の約200 /fbの電子陽電子衝突データを用いて、ミューオンg-2理論値のハドロン真空分極項に2番目に主要な影響を与えているπ+π-π0終状態の微分生成断面積を先行研究と同程度の精度で測定することを目指す。
本解析では盲検を念頭に置き、モンテカルロシミュレーションを用いて手法を一通り確立しのちに一部実験データを用いた確認をし、最後に全実験データを用いた測定を行うこととした。昨年度までに決定した事象選別条件に加え、事象選別後に残留する背景事象量の推定手法、データとシミュレーション間の信号効率補償手法、検出器分解能等の効果を考慮して測定した不変質量スペクトルから真の分布を推定するアンフォールディング手法を確立することで実験データ使用に向けた解析手法が一通り決定した。この結果として、Belle II実験において2021年夏までに取得されているの約200 /fbの実データを用いて測定を行った場合、データとシミュレーション間で不測の不一致が存在しない限りで、別実験での測定と同程度の系統誤差が見込まれることを示した。並行して段階的に高輝度化していくBelle II実験の高効率かつ安定的なデータ取得に向けた技術開発として、ハードウェアトリガーモジュールの開発、導入を行い、その成果を国際学会にて報告した。
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