研究課題/領域番号 |
19J21785
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
洞口 泰輔 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | スピン流 / スピントルク / 強磁性共鳴 / スピン渦度結合 / 傾斜材料 |
研究実績の概要 |
従来、スピン流生成にはスピン軌道相互作用の大きな重金属が必須であった。しかし近年、表面自然酸化銅での高効率スピン流生成の報告がなされ、膜厚方向への組成傾斜に由来する電流の渦度→スピン流変換機構の存在が示唆された。本研究は電流の渦度由来スピン流生成の定量的検証及び系統的調査に挑戦し、貴金属に依存しないスピン流デバイス実現への指針提示を目指すものである。本年度は、1.Si-Alを用いたスピントルク効率変調の傾斜幅依存性調査、2.数値計算によるスピン流生成効率の傾斜幅依存性の見積もり、および3. 窒化銅(CuN)組成傾斜膜でのスピントルク効率測定を遂行した。 1.Si-Al2層膜の界面にAl-Siの極薄膜を挿入した疑似傾斜膜において、スピントルク効率の増大・極薄膜厚依存性を確認した。Si-Alの原子拡散による傾斜領域中での電流渦度由来のスピン流生成を示唆する結果であり、試料断面の透過電子顕微鏡観察との比較から、組成傾斜幅とスピントルク効率の相関を示唆する結果を得た。 2.上記1.で得られたスピントルク効率の傾斜幅依存性検証のため、スピン渦度結合由来のスピン流源を考慮したスピン拡散方程式の数値計算に取り組んだ。傾斜材料を扱う本研究では従来考慮していなかった材料定数の空間依存性を取りこむ必要がある。傾斜材料系において解くべきスピン拡散方程式の導出、Pythonを用いた求解プログラムの実装、単純条件での動作検証を行った。 3.CuNは組成により数桁もの電気伝導率変調が可能であり、反応性スパッタにおける導入窒素ガス量により組成を簡便に制御できるため、制御性のよい傾斜膜生成手法と言える。すでに電気伝導率の制御のためのガス導入量条件は調査済みであり、本年度はCuN/NiCuをはじめとする複数の構成の多層薄膜とCu単膜におけるスピントルク測定を行い、特定の構成においてスピントルク効率変調を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初目標は「Si-Al膜、CuN膜を用いたスピン流生成の系統的調査」であった。Si-Al膜におけるスピントルク効率の挿入層の膜厚(傾斜幅)依存性は傾斜構造によるスピン流増大の存在を示唆している。傾斜構造におけるスピン流生成のモデル化・数値計算を行うプログラムの実装を行い、実験・計算の両面から巨視的回転のスピン変換のメカニズムへ迫る基盤を整えた。より制御性の高い窒化銅薄膜を用いたST-FMR測定も並行して遂行しており、異なる材料を用いて傾斜構造に普遍的なスピン流生成を調査できる状態であると言える。以上より、現在の達成度はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目標は電流の渦度に由来する(1)スピン流生成の検出、(2)スピン流強度の接合界面依存性の定量化、(3)他の機構(SOI)の寄与の分離である。次年度以降は、Si-Al膜、CuN膜ともに「逆スピンホール効果測定によるSOIの寄与の有無の解明」、「スピントルク検出層(磁性層:NiCu)の膜厚依存性測定によるスピントルクの精密測定(Damping-like torque、Field-like torque分離)」、「数値計算と実験の比較を用いた傾斜構造における巨視的回転のスピン変換メカニズムの解明と定量評価」を行う。
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