研究実績の概要 |
本研究代表者はこれまでに、カーボンナノチューブ(CNT)をプローブとしてタンパク質の物性解析を進めてきた。2019年度においてはまず、これに継続してCNT-タンパク質複合体フィルムを作成することで、タンパク質の表面電荷に応じたCNTの電子特性に変調が見られることを発見した。これはCNTがタンパク質の電子状態を探索する有用なプローブであることを示唆している。一方で、タンパク質はCNTの電子特性を制御可能な物質であると言い換えることができる。タンパク質はこの他にも様々な用途が提案されており、タンパク質に関して得られる科学的な知見は、学術界のみならず、産業界においても常に注目されてきた。 そこで本採択課題では、そんなタンパク質の光誘起される超高速な二次構造の変化を直接観察可能な時間分解紫外円偏光二色性分光装置(FUV-TRCD)の開発を第一の目標とした。さらに、実際にFUV-TRCDを用いて超高速なタンパク質二次構造の変化を明らかにすることを最終的な目標としている。2019年度はFUV-TRCD開発に向けて、基盤となる可視光域における定常的な円偏光二色性分光装置の構築を目指した。そのためにFUV-TRCDへの転用も考慮した光学系を設計し、グラントムトン(GT)プリズムなどの必要な光学素子を調達後、それらを用いてハロゲンランプを光源とした円偏光二色性分光装置を構築した。 この構築した測定装置の評価は、(6,5)および(8,6)CNTの光学異性体(エナンチオーマー)を用いた。結果として、(6,5)CNT、(8,6)CNTとも定常的なCDスペクトルを得ることに成功した。得られたCDスペクトルは日本分光社製の円偏光二色性分光装置を用いたCDスペクトルと比較してよく一致していることを確認した。これにより、当初予定していた定常的な分光装置の構築には至ることができた。
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