本研究代表者はこれまでに、2019年度は定常的な円偏光二色性分光装置の構築に取り組んだ。2020年度では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い装置のさらなる構築作業を実施することができなかったために、やや遅れが生じていた。2021年度では引き続いて装置への超短パルス光を導入し時間分解能を付与することを試みた。しかしながら結果として、光学素子の納入の遅れなどを理由に2021年度中の装置の開発には至らなかった。 一方で、本研究の測定対象であるカーボンナノチューブ(CNT)やタンパク質に関する新規材料の開発や物性理解を目指した研究においては成果を上げた。昨年度までに、タンパク質をCNTに吸着させることでCNTの電子状態を変調し得る可能性が示唆されたことを報告し、その詳細な機構の解明に取り組んできた。その結果、タンパク質中のシステイン残基がCNTの電子状態を変調していることを明らかにした。さらに、システイン残基はCNT複合体をフィルム上に加工した後も有効に働くことを明らかにした。本研究成果はCNTの新たな機能制御の手法として期待できる。 また、ナノスケールでの相互作用に関連した抗体タンパク質に関する研究も実施してきた。抗体医薬品の製造過程や保管過程で形成されることが報告されている抗体凝集体は望まぬ免疫応答を誘発することが懸念されている。本研究では、この凝集体が投与された直後に血清タンパク質等と相互作用することで抗体凝集体の表面にどのような変化が生じるのかをin vitroの実験系で調査した。その結果、抗体凝集体の表面に血清タンパク質が吸着することでタンパク質コロナを形成し、さらに粒径が急激に成長することを発見した。本研究成果は国際誌に投稿し、現在改訂版を作成中である。 その他、新たな共同研究を築くことで上記研究全てに関連する技術であるタンパク質の設計、発現、精製技術を習得した。
|