3年目である今年度は、主要骨格環内にケイ素を有する医薬品ケイ素類縁体の合成に取り組んだ。しかし、鍵反応である「イミンとビニルシランとの環化反応」や「窒素に隣接した炭素へのビニルシランの導入」が思った通りに進行しなかった。そのため、当初の目的であった医薬品ケイ素類縁体の合成はできなかった。その一方で、実験中にいくつか遷移金属触媒を用いた新しい反応の発見をした。 一つ目として、二重結合が連続した構造であるアレンを用いた位置選択的な環化反応である。これは、金属触媒の有無により、同一のアレン化合物から異なる環化体を作り出すことができる。従来法では、化合物の嵩高さによって環化制御を行っていたため、今回全く新しい方法で環化体を得ることに成功したと言える。 二つ目として、金触媒を用いた含ケイ素環状化合物の合成である。溶媒を変更することで環化反応を制御し、5員環・6員環・7員環含ケイ素環状化合物を作り分けることができた。こちらは溶媒の違いによる異なる環状化合物の合成法であり、今までにない多様性志向合成が可能になったと言える。今後さらに基質適用範囲を拡大させ、世界初の含ケイ素生理活性物質の合成へと応用していきたい。 三つ目として、環化カルボニル化反応による含ケイ素3環式環状化合物の合成である。こちらの反応は、一酸化炭素を化合物に導入して、ケイ素環状化合物を合成した初めての反応例である。これら3例について残り1年の在学期間中に論文として報告する予定である。 また、有機合成化学協会誌の2021年79巻7号に「N-保護アミノ酸を配位子として用いた炭素(sp3)-水素結合活性化反応」について総説を書き、掲載した。
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