研究課題/領域番号 |
19J21816
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保 賢太郎 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 揺動散逸定理 / 電流ゆらぎ / ホール伝導度 / 局在 / 量子ホール効果 |
研究実績の概要 |
ホール伝導度と非対角電流ゆらぎは揺動散逸定理により等価な物理量だと思われてきた。そのため盛んに研究されてきたホール伝導度の性質が非対角電流ゆらぎの性質でもあると考えられてきたため、巨視系における電流ゆらぎの性質の研究は存在しなかった。しかし、我々の昨年までの研究により、揺動散逸定理は量子系では破綻すること、つまり両者は実は独立な物理量であることが明らかになった。これは巨視系における非対角電流ゆらぎの性質が未解明であることを明るみにした。この点に着目した我々は、電流ゆらぎの性質について研究を行った。 考察対象として電子間相互作用の無い二次元電子系を選んだ。まず、ホール伝導度の性質を明らかにした先行研究の解析的手法に習い、非対角電流ゆらぎを各一粒子状態の寄与に分解し、それぞれの寄与を評価した。その結果として、非対角電流ゆらぎには非局在状態だけでなく局在状態も寄与することがわかった。これは非局在状態しか寄与しないホール伝導度の性質と対照的である。また、この性質はホール伝導度にも対角伝導度にも対角ゆらぎにもない著しい特徴である。次に各状態の寄与の大きさを明らかにするため、短距離型の不純物ポテンシャルを仮定し、整数量子ホール効果が観測されるような低温強磁場のパラメタ領域で数値計算を行った。その結果、非対角電流ゆらぎが占有率に対してほぼ線形に増加することがわかった。この振る舞いは、不純物なしの系での厳密な比例関係と比較して、ごくわずかな違いしか出ない。これはよく知られたホール伝導度の性質と著しく異なっている。ホール伝導度に現れるようなプラトーはもちろん出現しない。この結果はまた、試料内部の非対角電流ゆらぎの性質を使えば、その測定値から占有率や電子数を推定する、といった応用が可能であることも示唆している。これらの成果について投稿論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電流ゆらぎの性質の研究を通して、揺動散逸定理がなぜ破れるのかという問いに対する理解が深まった。そういった意味で研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1. 昨年度の研究を通して巨視系の非対角電流ゆらぎは非局在状態だけではなく局在状態も寄与するという新奇な性質をもつことがわかった。またその性質を占有率や電子数の推定に応用する可能性を見出した。具体的な物理系で占有率・電子数推定がどれだけの精度でできるのかについて、追加計算による検証を行う。またこれらの内容について投稿論文の執筆を行う。 2. 昨年度に行った電流ゆらぎの位置依存性についても引き続き解析を行う。巨視的二次元電子系の内部から十分に大きな領域を切り出した場合、その領域における電流ゆらぎは試料の端を含まなくても試料全体の電流ゆらぎとほとんど一致することがわかっている。本年度は試料の端にできる特徴的な状態(エッジ状態)が担う電流ゆらぎがどのように振る舞うのかについて明らかにするための追加計算を行う。エッジ状態の担う電流ゆらぎは試料に接続された端子遠方での電流ゆらぎに一致するのではないか、といった仮設を立てているので、その検証を行う。また得られた結果の考察を通して、なぜこれまで揺動散逸定理の破綻が観測されてこなかったのか、揺動散逸定理の破綻を観測するにはどのような実験を行えばよいのか、についての理解を深めたい。 3. 本年度はDC1特別研究員としても博士課程の学生としても最終年度となる。これまで研究してきた揺動散逸定理の量子破綻やそこから派生した研究により得られた様々な成果を博士論文としてまとめ発表を行う。
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