本年度の研究では、メタノール資化性酵母K. phaffiiにおいて細胞外界のメタノール濃度に依存した転写活性化因子Mxr1のリン酸化修飾制御に着目し、Mxr1のリン酸化レベルと下流の遺伝子発現(AOX1)との関係についてより詳細に解析した。Mxr1の推定リン酸化部位変異体発現株を用いてAOX1のmRNA量を定量した結果、AOX1の濃度応答性メタノール誘導(CRMI)に重要なリン酸化部位を同定した。また、Mxr1の上流に位置するプロテインキナーゼPkc1の活性化によって、Mxr1のリン酸化レベルも変化することを見出した。これらの結果から、細胞表層で感知されたメタノール濃度情報はPkc1を介して転写因子Mxr1へと伝達され、下流の遺伝子発現を制御するというCRMI経路の分子機構を明らかにした。本研究成果はMolecular Microbiology誌に掲載され、International Union of Microbiological Societies 2022など、国内外の学会で発表した。この他に、K. phaffiiにおける培地中メタノール濃度とペキソファジーの関係についてまとめ、International Congress on Yeasts 15thや第7回 酵母研究若手の会で発表した。 またメタノール資化性酵母C. boidiniiにおいて、メタノール濃度に応じて発現誘導される転写活性化因子Mpp1に着目した。メタノール培養時にMPP1遺伝子の発現制御が適切な量・タイミングで行われないと、CRMIに依存した遺伝子発現やメタノール培地での生育に負の影響を及ぼすことがわかった。さらにMPP1遺伝子の発現制御に重要なプロモーター領域を同定し、MPP1遺伝子の発現調節のメカニズムを明らかにしつつある。本研究成果の一部は日本農芸化学会2022年大会で学会発表した。
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