研究課題
昨年度まで行った牛伝染性リンパ腫ウイルス (BLV) 感染牛を用いた臨床応用試験において、抗programmed death-ligand 1 (PD-L1) 抗体とcyclooxygenase (COX)-2阻害剤の併用投与により、強い抗ウイルス効果を示すことが明らかとなった。本年度は、抗PD-L1抗体およびCOX-2阻害剤の併用によって治療効果が増強された機序を解明するために、抗PD-L1抗体単剤で治療されたBLV感染牛由来の検体を詳細に解析した。その結果、抗PD-L1抗体投与後、血中プロスタグランジンE2 (PGE2) 濃度が有意に増加することが示された。抗PD-L1抗体治療下で誘導されたPGE2の役割を検討するために解析を行い、PGE2が受容体E prostanoid (EP) 4を介してT細胞の活性を直接抑制することおよび抗PD-L1抗体処置により産生されたTh1サイトカインの一種であるtumor necrosis factor (TNF)-αによってPGE2産生が誘導されることが明らかになった。以上より、TNF-αによって誘導されたPGE2が受容体EP4を介して抗PD-L1抗体の治療効果を減弱させている可能性が示唆された。これらの結果をもとに、抗PD-L1抗体とEP4阻害剤の併用法の機能解析を行った。BLV感染牛由来の検体を用いて解析したところ、抗PD-L1抗体とEP4阻害剤の併用がin vitroにおいてBLV特異的なT細胞応答を活性化させることを示した。以上より、抗PD-L1抗体とEP4阻害剤を用いた併用法が、BLV感染牛に対する新規治療法となり得ることが示唆された。今後は、その治療効果を慎重に検討していきたい。上述の内容に加えて、ヨーネ菌感染牛に対する抗PD-L1抗体の投与試験を行った。投与後の免疫応答および排菌量を解析したところ、ヨーネ抗原特異的な免疫応答が活性化し、一部のウシで排菌量が減少した。以上より、PD-1/PD-L1を標的とした治療法がヨーネ病に対する新規治療法となり得ることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
採用第2年度目である本年は、抗programmed death-ligand 1 (PD-L1) 抗体を投与した牛伝染性リンパ腫ウイルス (BLV) 感染牛由来の検体を詳細に解析して、抗PD-1/PD-L1抗体治療に対するプロスタグランジンE2 (PGE2) を介した新規耐性メカニズムを明らかにした。具体的には、抗PD-L1抗体投与後に誘導されたPGE2が、受容体E prostanoid (EP) 4を介して抗体療法の効果を減弱させていることを示した。また、抗PD-L1抗体とEP4阻害剤を併用することで、BLV抗原に対するT細胞応答がより強く活性化することが明らかとなった。上述の研究内容に加えて、ヨーネ菌感染牛に対する抗PD-L1抗体の投与試験も行った。抗PD-L1抗体投与後、ヨーネ菌特異的なTh1応答が活性化すること、一部のヨーネ菌感染牛で排菌量が減少することが示された。以上より、PD-1/PD-L1経路を標的とした抗体療法が、ヨーネ病に対する新規制御法として有用である可能性を示した。これらの研究成果を含む今年度の研究成果は、筆頭著者としてImmunoHorizons誌やScientific Reports誌を含む計5報の論文にまとめて発表した。また、これらの研究成果を非研究者のコミュニティーにも発信するため、北海道大学を通じて計3回のプレスリリースを行った。さらに本研究課題を基盤とした研究成果が高く評価され、日本獣医学会より獣医学奨励賞を受賞した。以上より、当初の計画以上に研究が進展していると考えられ、今後も継続して研究を続けることで牛難治性疾病に対する新規制御法の樹立を目指したい。
我々の研究において、プロスタグランジンE2 (PGE2) がウシにおいて受容体E prostanoid (EP) 4を介して免疫応答 (特にTh1応答) を抑制すること、PGE2/EP4経路が抗programmed death-ligand 1 (PD-L1) 抗体治療に対する抵抗性に関与する可能性を示した。これらの知見を基に、抗PD-L1抗体とEP4阻害剤を併用すると、牛伝染性リンパ腫ウイルス特異的なT細胞応答が活性化することが明らかとなった。今後は、引き続きその治療効果を検討していく予定である。また、これらの知見はヒトを含む他の動物種においてもほとんど報告されていないことから、本治療戦略が動物種によらず適応可能であることを検討するために、マウスリンパ腫モデルも用いて治療効果を評価する予定である。我々の研究において、PGE2がウシのT細胞応答を抑制することを示した。一方で、PGE2以外のプロスタグランジンとウシのT細胞応答の関連は未だ不明である。予備実験において、PGA1がウシ末梢血単核球からのTh1サイトカイン産生を抑制することを示した。今後は、PGA1がT細胞の活性化を抑制する機序を詳細に解析する予定である。具体的には、フローサイトメトリー法を用いてT細胞表面の活性化マーカーの発現を調べたり、リンパ球からCD3陽性細胞を単離してPGA1がT細胞に直接的に作用するかどうかを検討する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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