研究課題/領域番号 |
19J21830
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂庭 賢太朗 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 自然免疫 / TLR / クライオ電子顕微鏡 / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
本研究は,Toll様受容体 (TLR) 全長の構造解析を行うことにより,TLRのシグナル伝達機構を構造科学的に解明することを目的としている。スクリーニングにより発現量が比較的良好であったTLR3について,リガンドである二本鎖RNA (dsRNA) との活性化型複合体の試料調製を行い,クライオ電子顕微鏡による構造解析を試みている。 TLR3全長試料について,界面活性剤により可溶化された状態 (可溶化試料) で調製し,この試料を人工的な脂質二重膜環境であるナノディスク (ND) に再構成する条件の検討を行った。NDへ再構成されたTLR3全長/dsRNA複合体試料 (活性化型TLR3再構成試料) の調製と電顕観察について,再構成時の液性 (pH),タンパク質濃度,リガンドの工夫 (修飾処理),脂質組成などを検討した。また,電顕観察に向けて再構成後の修飾処理や測定条件などについても検討を行った。その結果,凝集体形成は抑制され,分散性の高い活性化型TLR3再構成試料の調製が可能となった。 現時点での構造解析の結果,~3.3オングストローム分解能で二量体細胞外ドメインとdsRNAとの複合体構造が得られた。これは既報のX線結晶構造とほぼ同一の構造だった。一方で,膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインについては,不明瞭な密度が見られたものの構造決定を行うことはできていない。 本研究により決定された活性化型TLR3再構成試料の細胞外ドメインは,X線結晶構造と同様の構造であったが,溶液中および脂質二重膜模倣環境のTLR全長においてこの構造が確認されたという点で,重要な結果である。活性化二量体TLRの膜貫通ドメインまたは細胞内ドメインの構造解析については,これらのドメインを固定するなどの工夫が必要であり,ドメイン間で修飾を施すことや試料調製方法の見直しなどを行うことにより,全長構造の決定を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構造解析に向けて試料調製およびクライオ電子顕微鏡によるデータ測定の条件検討を進め,細胞外ドメインについては構造を捉えることができるようになった。これまでの結果からは,全長構造の決定にはより一層の工夫が必要であるという状況であるが,構造解析については順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
活性化型TLR全長の構造解析について,細胞外ドメインは高分解の構造が得られているが,膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインについては,不明瞭な密度が見られたものの構造決定には至っていない。膜貫通ドメインまたは細胞内ドメインの構造解析は細胞外ドメインに比べフレキシブルであることが予想される。これらのドメインを固定するなどの工夫が必要であり,ドメイン間で修飾を施すことや試料調製方法の見直しなどを行うことにより,全長構造の決定を目指す。 TLR3によるリガンド認識機構について,これまで知られていた二量体形成に加え,長鎖のdsRNAに対しては四量体やさらなる多量体形成を示唆する結果が得られたため,これについても検証を行いたいと考えている。現時点で,ゲルろ過クロマトグラフィーとクライオ電子顕微鏡による簡易的な観察において,二量体以上の (秩序のある) 多量体形成が示唆されている。この四量体についてもクライオ電子顕微鏡による構造解析を目指し,試料調製の検討を行う予定である。また,二量体化とそれ以上の多量体化によってシグナル伝達に変化が生じるのかという点も検証を行う。
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