当該年度においては生体脳におけるタウ病理の伝播について、自己凝集能を有すseedタウが細胞外腔を介し、神経活動依存的に細胞間を移行している可能性について検証した。 本研究員は前年度までにマウス脳における間質液中のseedタウを回収する系を樹立した。この系を応用し、ピクロトキシンを適量混入させた人工脳脊髄液によるリバースマイクロダイアリシス法によって薬理学的に神経活動を亢進させたところ、神経活動依存的な細胞外腔中seedタウ量の変化は見られなかった。次にピロカルピンを用いて、神経細胞障害が生じた際の細胞外腔中seedタウ量が変化するかについて調べたところ、こちらでは細胞障害と共に細胞外腔中seedタウ量は上昇した。 以上の結果から、少なくともseedタウは細胞障害によって間質液中へ放出されることを明らかにしたが、神経活動依存性は見られなかった。光遺伝学によって慢性的に神経活動を亢進する実験において、タウ伝播が亢進されたことを示す病理学的所見とは異なる結果を示した。これらの違いは、慢性刺激と急性の刺激によって脳内のタウseedの移行や放出形態が異なる可能性、マイクロダイアリシス法によって回収できているタウは病理学的な伝播を生じさせるseedタウを必要十分に回収できる系ではない可能性が考えられる。或いは慢性的な神経活動の亢進の結果として細胞障害が引き起こされ、タウ病理が引き起こされた可能性も考えられた。今後はアルツハイマー病でみられるアミロイド斑存在下で神経活動や細胞障害を抑制できた際にタウ伝播がどう変化するかについて調べられると、アルツハイマー病患者脳における神経活動や細胞障害性とタウ伝播の関係について更なる知見が得られる可能性がある。
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