研究課題/領域番号 |
19J21851
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
酒井 和哉 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 精巣毒性 / エピジェネティクス / small RNA / DNAメチル化 / 次世代影響 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
令和2年度においては、前年度にRNA-seq解析によって特定した「精巣毒性バイオマーカー候補RNA」について、臨床利用を想定したリアルタイムRT-PCR法においてもシーケンス結果を再現するかの確認を行なった。その結果、Doxorubicinの投与により作出した精巣毒性モデルマウスより得た精子RNAにおいて、2種のsmall RNAがRNA-seqの結果を再現する有意な発現変化を示すことが確認され、これらのsmall RNAが精巣毒性のバイオマーカーとして有用であることが示唆された。 また、化学物質により変動した精子エピゲノムが次世代個体の発生・発達に影響を及ぼす可能性(継世代影響または継世代毒性)を検討するため、モデル化合物としてヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるバルプロ酸(VPA)を雄マウスに投与することで雄性生殖細胞系列にエピゲノム変化を誘導し、生産された精子が次世代個体となるまでの系譜について次世代シーケンス解析を主体として精査した。その結果、VPAの投与が精巣のヒストンアセチル化を一過的に上昇させ、生産された精子のDNAメチル化の変化を誘導することが確認された。加えて、同精子と無処置の雌マウス由来の卵子を用いて体外受精・体外発生培養を行い、得られた胚を桑実胚段階においてDNAメチル化解析を行なったところ、少数ではあるが対照群と比較し高メチル化CpGの残存が検出されたほか、ゲノム全体的なメチル化率の分布について群内での分散が対照群と比較し大きくなっていることが確認された。さらに、同雄マウスを無処置の雌マウスと自然交配させ得られた次世代について行動解析を行なったところ、不安様行動の低下を主徴とする若干の行動変調が認められた。本系は「化学物質の継世代モデル」として有用である可能性が考えられ、引き続き解析を行なっていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の目標であった精巣毒性バイオマーカー候補RNAのリアルタイムRT-PCRによるvalidationを行い、良好な結果を得ることができた。また、当初の本年度の予定であったsmall RNAの発生過程における機能解析については設備が十分に整わなかったため、改訂実験としてバルプロ酸を利用した精子形成過程のエピゲノム撹乱と、DNAメチル化・遺伝子発現解析を主体とした化学物質の継世代影響解析を実施したが、これについては期待以上の進展があり、バルプロ酸のヒストン脱アセチル化酵素阻害作用に起因する精子DNAメチル化変化が胚のエピゲノム変化を通して次世代に影響を及ぼすことを示唆する結果を得た。本結果は「化学物質が継世代的な影響を及ぼすモデル」として有用であり、より詳細な解析を行うことで生殖発生毒性学・分子毒性学的に重要な結果となると考える。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、①本年度にリアルタイムRT-PCRレベルでの再現性が確認された精巣毒性バイオマーカー候補small RNAについて、精巣毒性に対する普遍的なバイオマーカーとなりうるかを確認するために、DXRとは異なる化学物質により誘発された精巣毒性モデルマウス精子についても同様の発現変化を示すかどうかを確認する。モデルマウスにはシスプラチン投与マウスを予定しており、投与濃度の検討は本年度に完了しているため、着実な研究遂行が見込まれる。また、②VPA投与による化学物質の継世代影響について、本年度の研究において行動影響が認められたVPA投与次世代個体の脳よりRNAを抽出し、RNA-seq解析を用いて行動変調を説明しうる遺伝子発現変化があるかどうかを検討する。上記①②それぞれについて論文として成果発表を行う。
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