令和3年度は、前年度までの研究で同定した精巣毒性バイオマーカー候補small RNAについて、成果の論文発表を行なった。また、バルプロ酸(VPA)投与によるエピゲノムの次世代影響モデルの解析を前年度より行なっていたが、前年度にVPA投与マウスの次世代個体(F1)が行動変調を示したことを受け、今年度はこれらF1個体の脳よりRNAを抽出し、RNA-seq解析により行動変調を説明しうる遺伝子発現変化の探索を行なった。その結果、様々な遺伝子の発現変動が認められたが、このうち脳・神経疾患・神経発生に関連する遺伝子をリストアップしたところ、興味深いことにこれらのうち大部分の遺伝子がF1個体で発現低下した遺伝子のクラスターに属していた。また、これらの変化がさらなる次世代(F2)に伝播する可能性を検討するために、F1世代の精子よりDNAを抽出し、網羅的なDNAメチル化解析を行なった上でその結果をVPA投与世代(F0)の精子DNAメチル化解析結果と比較した。その結果、F0世代で認められた遺伝子プロモーター領域におけるCpGシトシンのメチル化変化はF1世代においては認められず、F0世代でおよそ200箇所認められたメチル化変化領域(DMR)もF1世代では13箇所のみ検出された。以上より、VPA投与により認められた継世代的な影響が精子DNAメチル化に起因するもであるとすれば、その変化がF2世代まで伝播する可能性は低いことが考えられた。本成果についても現在、論文作成中である。
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