最終年度である本年度では、潜水活動時という特殊環境下での認知機能の変容についてのこれまでの研究成果を基に包括的なモデルの検討を行った。以下は具体的な内容についてである。
これまでの検討では潜水活動時に想定される「呼吸経路」・「身体姿勢」・「空間表象」を想定し、認知処理がどのように変容するかを検討してきた。まず潜水活動時にはその制限から、呼吸経路が口呼吸に限定されるということから、呼吸経路と空間的注意に着目した。その結果、口呼吸は、注意資源を低下させ、注意のパフォーマンスを低下させることを明らかにした。また、身体姿勢は水中では不安定になることから、股のぞき姿勢と境界拡張という風景記憶のバイアスについて検討を行ったところ、股のぞき姿勢は誤記憶を増強させる可能性が示唆された。また、空間位置(上下)の選好が一般参加者とダイバーで異なるのかを検討したところ、それらに有意な差は見られなかった。これらの結果から、潜水活動における認知機能の変調は、空間的注意や風景記憶などの外界への適応に必要な認知機能のみ変調し、選好などの判断には影響しないと考えられた。これらのことから、潜水活動によって変調する認知機能は、活動に必要な呼吸活動や身体姿勢の安定性が欠如している特殊で危険な空間である「水中」に適応するために我々が必要とする能力に関わる認知機能に顕著に影響を与えているのではないかと考えられた。これらについての詳細なモデルについては現在論文を執筆中である。
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