研究実績の概要 |
ヒストン修飾H3K4メチル化(H3K4me)は真核生物全体に保存され、よく転写されるゲノム領域に分布するヒストン修飾である。この修飾の撹乱は、多くの生物で致死表現型や環境応答の不全を起こし、H3K4meの適切な制御と機能は生物にとって重要と考えられる。しかしながら、H3K4メチル化が転写を促進するか、転写の帰結として修飾が起こるのかについて知見が相反していた。 [昨年度までの成果]複数のシロイヌナズナH3K4メチル化酵素について、それぞれのクロマチン上局在をクロマチン免疫沈降法(ChIP-seq)で同定した。このデータをもとに、二種類の機械学習アルゴリズムを酵素の局在/非局在ゲノム領域を判別するよう訓練することで、H3K4メチル化酵素のうち、ある2つは転写コンプレクスと共に、転写単位上に局在し、また別の2つは、転写と独立して、特定のクロマチン修飾やDNA配列を目印に局在することを見出してきた。 [今年度の成果]実施計画に則り、上述の解析上示唆されるリクルート機序の実験的検証を進めた。また、公開データを利用して、同様の解析を動物についても拡張し、リクルート機構の二分化が動物にも保存されていることを示唆する結果を得た。一連の結果を論文として準備した。加えて、より包括的にH3K4me制御を理解するべくこれまで注目してきたH3K4メチル化酵素遺伝子のホモログについても実験材料を準備した。 実施計画上では、年度後半に、H3K4me1,2,3の違いに注目したH3K4meの機能解析に取り組む計画であった。これは中途まで進めた。具体的には、昨年度までに、H3K4me1,2,3それぞれの低下が異なる修飾セットに影響を及ぼすことを見出していたが、そのうちであるH3K36me3とH2Bub-H3K4me1について、因果関係を遺伝学的に検証し、影響を仲介する因子を逆遺伝学的に絞り込むことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
1.H3K4メチル化酵素群のリクルート機序に関する仮説の実験的検討をさらに進め、論文として出版する。また、より包括的にH3K4me制御を理解するべく、これまで注目してきたH3K4メチル化酵素遺伝子のホモログについても同様の解析を行う。 2.H3K4me1,2,3の下流で引き起こされるクロマチン修飾撹乱を引き続き詳細に解析する。これまで見出してきた現象として、例えば、H3K4me2が低下したローカスにはH3K27me3 が侵入しH2A.Zが除かれるが、H3K4me1とme3はどうやら影響しない。H3K4me1の低下は経世代的に抑制的DNA修飾mCHGを蓄積させる。遺伝学と慎重な多変量解析から、観察された様々な影響間の因果関係を整理し、また、特異性を持って影響を仲介する因子(クロマチン修飾リーダー等)を主に逆遺伝学的に探索したい。これらは昨年度行う予定だったが、コロナウイルス感染対策の影響で部分的に延長した課題である。時間的制約を鑑み、特にゲノムへの影響が大きいと推察され、興味ぶかい表現型にも帰結することから、H3K4me1とmCHGの関係に優先して注力する。
|