研究実績の概要 |
本研究の目的は、歩行動作を客観的に観察する「歩行観察」と脳内で自分が歩いていることを想起する「運動イメージ」の神経機構を明らかにすることである。さらに本研究では、明らかにした歩行観察と歩行イメージを併用した時の神経活動の変化をリハビリテーションへ応用することを目指す。 2020年度では、歩行観察とイメージの併用が大脳皮質の活動にどのような影響を与えるのか調べた。これまでの研究で、歩行観察とイメージを併用することにより、皮質脊髄路の興奮性や脊髄運動ニューロンの興奮性を増大することを示した(Kaneko et al., 2018 Neuroreport; Kaneko et al., 2018 Neuroscience Letters; Kaneko et al., 2019 Brain Sciences)。これらの変化は、歩行観察とイメージにおける大脳皮質の活動の変化によるものだと考えた。したがって、当初の研究計画通り、歩行観察と歩行イメージの併用時における大脳皮質の活動を調べるために、脳波計測機器を用いて実験を実施した。12人数分の脳波データを測定することができた。脳波解析の結果、大脳皮質感覚運動野において興味深い結果が得られた。歩行観察と歩行イメージの併用を行うことで、実際の動作をしていないにもかかわらず、実歩行時と類似した感覚運動野の活動が見られた。さらに、感覚運動野では立脚や遊脚といった歩行位相に関連する神経活動の変調まで類似していた。この結果は、運動の観察とイメージの併用がより実動作の神経活動を惹起できることを示唆している。本研究の結果は、運動機能障害を有した患者における運動観察と運動イメージの有用性を示している。本研究成果を論文としてまとめ、国際誌Neuroimage誌に投稿して受理された。
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