研究実績の概要 |
絡まりを伴う球殻構造による人工酵素の構築を目指して、内部空間の修飾および機能化を行った。[6]カテナンを形成するペプチド配位子のうち内部空間を向いているアミノ酸残基に着目し、様々なアミノ酸への変更を検討したところ、多くのアミノ酸残基について[6]カテナンの構造が維持されていることが1H NMR測定や動的光散乱(DLS)測定において確認された。そこで、側鎖に共有結合部位や水素結合部位を有するアミノ酸を組み込むことでゲスト分子の包接を試みた。 リジンの配位性側鎖にコール酸類を縮合したのち、オリジナル配位子および銀イオンと1:3:4の比率で錯形成したところ、[6]カテナン由来のシグナルが観測され、コール酸類を内部空間に集積した球殻構造の形成が確認された。アミドプロトン由来のシグナルは複雑に分裂しており、コール酸を結合した配位子とオリジナルの配位子の両者が1錯体中に含まれることで対称性が低下していることを反映している。また、水素結合ドナーおよびアクセプターとしての役割を有するウレア基をもつシトルリンを用いたところ、カルボン酸を有するゲスト分子と内部空間で相互作用を生じることが見出され、包接が可能であることが示された。本成果は、絡まり球殻構造による人工酵素の構築および巨大球殻状構造の構築に繋がる重要な知見と考えられる(Nat. Commun. 2019, 10, 5687)。 さらに、交差数60をもつ[12]カテナンの構築に向けた配位子検討の過程で、単純なグリシンのみからなるペプチド配位子からも絡まりが生じることを発見し、ドーナツの周りをペプチド鎖が巻き付いたようなトポロジーをもつ7・8交点のトーラス結び目構造の構築が達成された(Chem 2020, 6, 294-303)。これは、金属-ペプチドからなる鎖が潜在的に絡まりを作りやすいことを示唆する重要な成果であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
球殻状[6]カテナンにおいて、側鎖を修飾しても構造が保たれることを見出し、水素結合ドナーや共有結合部位を有する側鎖で内部修飾した球殻構造を実際に合成した上で、トリカルボン酸の非共有結合的包接や胆汁酸類の共有結合的包接が可能であることを達成した(Nat. Commun. 2019, 10, 5687)。実験的にゲストの包接が可能であることから、側鎖の修飾が人工酵素の構築に対して有効な戦略であると示された。 また、アミノ酸の中で最も単純なグリシンのみからなる配位子と金属の自己集合からも絡まりが生じるという予想外の発見も得られた。交差数7,8のトーラス結び目構造の化学合成例はなく、単純なペプチドと金属イオンから簡便に絡まり構造が構築できるという知見を示したのは重要な成果といえる(Chem 2020, 6, 294-303)。
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