研究課題/領域番号 |
19J21931
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大村 慧太 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | シトクロムP450 / 補因子置換 / 酸化反応 |
研究実績の概要 |
ヘム酵素の一種であるシトクロムP450は常温・常圧下で強固なsp3C-H結合を直接水酸化するため、環境調和型のバイオ触媒として期待される。その中でも巨大菌由来のP450BM3は還元系と一体化した複合型酵素であり、ドメイン間での高効率な電子伝達が可能なため、極めて高い触媒活性を示す。しかし化学的に不活性な有機小分子(メタン、エタン等)の効率的な反応は達成されていない。これらの不活性分子に対する反応性を向上させるには、従来の変異導入だけでなく、活性中心となるヘム自体の反応性を改変する必要がある。そこで本研究では活性中心であるヘムを合成金属錯体に置換することでP450BM3の触媒活性の向上を目指した。本年度では、ヘムと類似の分子骨格を有する種々のポルフィリン錯体(中心金属としてCr、Mn、Co、Mo、Rh等)を検討した。条件の最適化を行うことで様々なヘム置換P450BM3の再構成に成功し、それらの錯体がヘム結合部位に正しく収容されたことを結晶構造解析により確認した。活性評価の結果、マンガンプロトポルフィリンIX(Mn-PPIX)結合型P450BM3(Mn-BM3)が最も高い活性を示すことが明らかとなった。そこで、このMn-BM3の更なる高活性化を目指し、種々の変異体の検討及び反応機構の解明検討を行った。Mn-BM3のI401P変異体は、野生型Mn-BM3を大きく上回る分子活性kcat(807.5 毎分)を示した。この高い触媒回転数はヘム結合型P450BM3に匹敵し、非天然のポルフィリン錯体を内包したP450としては最大である。また、ストップトフロー装置を利用することにより、Mn-BM3の酸化活性種生成に関わる中間種であるマンガンポルフィリン酸素結合体の観測に成功した。この中間種は、ヘム結合型酵素の対応する中間種と比べて非常に長い半減期を有することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本申請課題ではヘム置換P450BM3の高活性化を一つの目標としたが、高活性化に向けた設計には触媒サイクルに基づいた合理的な指針が必要である。本研究に用いたP450BM3の触媒サイクルは、多段階からなる酸素分子活性化過程と、それによって生じた酸化活性種による基質の酸化過程から構成される複雑なものである。そこで当初は、触媒サイクルの全容解明と律速段階特定を目指し、各過程を精査するという長期的な実験を計画していた。しかし本年度に実施した、種々の変異体を検討した実験により、高活性なMn-BM3変異体I401Pを発見し、高活性化に寄与するファクターに関する重要な知見を得た。これにより調査を実施する反応過程を絞り込むことができたため、当初の計画以上に研究が進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度で特定した、高活性Mn-BM3変異体I401Pについて、その律速過程について調査を行い、さらなる高活性化を目指す。また、当該年度で観測に成功した中間種であるマンガンポルフィリン酸素結合体について、各種分光化学測定やX線結晶構造解析などにより精密なキャラクタリゼーションを行い、触媒メカニズムに関して理解を深める。さらに、ヘム置換BM3の生成する酸化活性種に関して詳細な知見を得るため、重水素化された基質を用いて同位体効果の測定を行う。また、分子動力学的手法(MDシミュレーション)を用い、非天然錯体の導入によるタンパク質構造への影響に関して調査を行う。分光化学測定やMDシミュレーションで得られた知見を基に反応空間を最適化することで、最終的には、高難度反応であるエタンやメタンなどの酸化反応の高効率化を目指す。
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