研究課題/領域番号 |
19J21938
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 顕登 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | スピン軌道トルク / ラシュバ効果 / 極性 / 交換バイアス |
研究実績の概要 |
本研究は極性や強誘電性に由来した巨大な内部電界を強磁性体界面に導入し、スピン軌道トルクの増大を目指すものである。本年度は主に極性ZnO基板と無極性Al2O3基板直上に製膜したCo/MgO系でスピン軌道トルクの比較を行った。 スピン軌道トルクの起源としては重金属のスピンホール効果と異種接合界面におけるラシュバ・エデルシュタイン(RE)効果の二つが提唱されている。今回、スピンホール効果の影響を排除するため、重金属層を持たないZnO(極性)基板/Co/MgOおよびAl2O3(無極性)基板/Co/MgOで高調波ホール測定を行い、スピン軌道トルクの大きさを評価した。その結果、ZnO基板上の試料のみでスピン軌道トルクが観測された。両試料間での構造上の違いは基板/Co界面のみであり、ZnO/Co界面に由来したトルクが観測されたと考えられる。また、ZnO/Co界面にごく薄いPt層を挿入した系でも同様の測定を行ったところ、両基板間での差がより大きく現れた。これは、Pt原子の大きいスピン軌道相互作用に由来して界面におけるRE効果が増大した可能性を示唆している。 上記に加え、スピン軌道トルクを利用した交換バイアスの制御にも取り組んだ。近年、重金属/反強磁性体/強磁性体構造において、パルス電流を印加するとスピン軌道トルクを駆動力として交換バイアスが反転するという報告が相次いでいる。そこで、IrMn/CoFeBに様々な非磁性金属を接合した系において、無磁場下・外部磁場下でパルス電流を印加して、交換バイアスの振る舞いを調査した。その結果、非磁性金属のスピン軌道相互作用の大きさやスピンホール効果の符号に関係なく交換バイアスが反転することが分かった。さらに調査を進めた結果、交換バイアスの反転で最も重要なのは、ジュール熱による試料温度上昇であると分かった。これは現在の理解に一石を投じる結論である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採用から本年度にかけては、まずn型半導体であるZnO基板への電気伝導を回避するため、素子作製条件および測定条件の最適化を行った。その後、重金属層を含まないCo/MgO構造でも極性ZnO基板上に製膜することでスピン軌道トルクが生じることを発見した。これは、当初の計画通りであり、RE効果由来のスピン軌道トルク増大に向けた新たな指針を見出したという点で大変意義深い。しかし、現段階で観測されているスピン軌道トルクの大きさは重金属のスピンホール効果を用いた場合に比べて1/10程度と小さく、更なるトルクの増大が望まれる。また、ZnO基板上のCo/MgO試料における高調波ホール測定では、これまでに報告のない特異な信号も検出されており、その起源を探るとともに測定手法の再検討が必要と言える。 電流による交換バイアス制御に関しては、様々な非磁性体を用いて緻密に実験を進めることで、そのメカニズムに迫ることができた。 以上の理由から、おおむね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
まず、ZnO/Co/MgO試料におけるRE効果とスピン軌道トルクについて、高調波ホール抵抗の磁場依存性測定や4端子抵抗の高調波測定などを通して、より詳細に調査していきたい。特に、4端子抵抗の第2高調波成分は界面におけるスピン蓄積に由来して現れることが知られており、ZnO/Co界面におけるRE効果の存在を裏付けることができると期待される。また、極性ZnO基板をより電気分極の大きい強誘電体に置き換えることで、RE効果およびスピン軌道トルクの増大を図る予定である。
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