研究課題/領域番号 |
19J21962
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
木村 俊輔 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | エレクトロクロミズム / EC素子 / 局在表面プラズモン共鳴 / LSPR |
研究実績の概要 |
本研究は、銀の可逆な酸化還元反応に基づいて、多様な色、光学状態を発現可能な銀析出型エレクトロクロミック(EC)素子に関するものである。本年度は、対極反応材料の検討によって発色保持特性の向上を狙った研究と、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)に基づいた発色原理を暗視野光学顕微鏡によって解析する研究の2点を重点的に実施した。 既報の銀析出型EC素子では、対極反応材料としての塩化銅(II)を電解液に添加しており、優れた発消色繰り返し耐久性を実現していた。一方で、析出銀に電解液中の2価銅イオンが接近すると銀は酸化溶解してしまい、無電力状態下では発色状態を維持することはできなかった。対極反応材料としての塩化銅(II)の代替として、対極上プルシアンブルー修飾電極を容量性対極として用いたEC素子の構築とその特性評価を実施した。その結果、新規「銀-プルシアンブルー型EC素子」は、発色保持特性と電圧印加に伴う高速な色変化の応答を両立することが明らかとなった。 また、銀粒子が誘起するLSPRを解明するために、暗視野顕微鏡による解析を実施した。暗視野顕微鏡は金属ナノ粒子のプラズモン共鳴による光散乱を観察可能であり、その散乱光から金属ナノ粒子のLSPR波長を知ることができる。例えば、400-500nmと600-700nm付近に2つの吸収を有する、緑色を発現する素子を暗視野光学顕微鏡で観察した場合、それぞれの波長領域に対応した紫色の散乱光を観察することができた。これによ り、緑色発色状態の吸収スペクトルが有する2つの吸収帯が、どちらも金属ナノ粒子のLSPR由来であることを直接的に明らかにすることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
銀析出型エレクトロクロミック(EC)素子の対極の検討については、プルシアンブルーを用いる事で、狙い通り、発色保持特性を有する素子構築に成功したといえる。一方で、詳細な解析を進めた中で、プルシアンブルーのクラック構造中に銀が析出してしまい、素子にノイズが発生するという、金属析出型EC素子ならではの課題が新たに生まれた。プルシアンブルー以外の材料も視野に入れて、今後、条件の最適化が必要である。 もう一点目の大きな取組では、EC素子中で生成するプラズモニック銀ナノ粒子について、暗視野光学顕微鏡による解析を実施している。これまで素子の吸収・反射スペ クトルや析出銀形状の電子顕微鏡による観察結果から議論していた、銀ナノ粒子が誘起する局在表面プラズモンについて、より直接的に理解することに成功している。従来の予想と矛盾していない結果が出ており、3年間の研究課題の1年目として、期待通り進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの進捗から、 暗視野顕微による直接的なLSPRの観察や光学特性シミュレーションの利用は、EC素子中で電気化学的に生成する銀ナノ粒子とその光学特性の相関解明に、有意であると確認できた。 今後は、これまでの知見や測定手法を用いて、更に多様な光学状態について解析を進める予定である。
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