研究課題/領域番号 |
19J21971
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
西子 まあや 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | SOD / コクヌストモドキ / 抗酸化酵素 / RNAi / トランスクリプトーム解析 |
研究実績の概要 |
次世代シーケンサーを用いたトランスクリプトーム解析の結果を用いて、TcSOD6遺伝子ノックダウンによる発現変動遺伝子の解析を行った。発現変動遺伝子の解析により、TcSOD6の遺伝子ノックダウンによって、形態形成や組織の発達、変態に関与する遺伝子が発現変動したことが示された。さらに、発現変動遺伝子にコードされたタンパク質間の相互作用を解析すると、Protein kinase shaggyを中心とするタンパク質間相互作用ネットワークが検出された。このネットワークには、筋肉の発達と、神経の発達に関与する遺伝子が含まれていた。完全変態昆虫における変態時の、運動神経の維持と幼虫期の筋肉の破棄、成虫筋肉の分化の制御のメカニズムは、完全には明らかにされていない。また、蛹期の神経や筋肉の発達においてSODが関与しているといった報告は現在ない。TcSOD6は、sggの発現を制御することで、変態時の運動神経の再編成を制御していることが世界で初めて示唆された。 さらに、異常な動きを示した脚部の内部構造を詳細に観察するために、TcSOD6遺伝子ノックダウン個体およびコントロール個体の脚部切片を用いた電子顕微鏡観察を行った。コクヌストモドキの脚の付け根であるcoxaおよび、脚部第1節のfemureにおいて、TcSOD6遺伝子ノックダウン個体では神経軸索の形成がなされず、異常な形態が観察された。 TcSOD6タンパク質の性質を組み換えタンパク質を用いて解析すると、TcSOD6はタンパク質翻訳後、修飾され、短い配列に切断される可能性が示された。 以上より、次世代シーケンサーを用いたトランスクリプトーム解析、電子顕微鏡を用いた細胞形態の観察、組み換えタンパク質を用いたタンパク質の特性解析といった、新しい方法による実験を実施し、それにより、今まで明らかにできていなかった数多くの結果を得ることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究において、TcSOD6の発現抑制による脚部の異常な動きの分子メカニズムを探るため、トランスクリプトーム解析、組織化学解析および、タンパク質の性質解析を行った。申請当初、TcSOD6はドーパミン合成系に関与する機能を持つことが予測されたが、これらの結果、ドーパミン合成の機能ではなく、直接的に神経や軸索の形成を制御することが示された。当初の予測とは異なるものの、SODが神経形成に関与することを世界で初めて示す結果となり、これらの結果をまとめた論文は、現在外部査読にかけられている。この研究により、これまで未解明であったTcSOD6遺伝子が神経再生の基盤的役割を担う可能性を見出すことに成功した。 加えて、TcSOD6タンパク質の性質を調べた実験では、TcSOD6タンパク質が、切断を受けて成熟型に変化し、体液中に分泌されることを発見し、TcSOD6タンパク質の役割に迫ることができた。TcSOD6のタンパク質の特性は、世界でもまだ誰も解析したことが無い。今後さらに解析を進め、タンパク質の特性についても論文が発表できることを見通すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
昆虫種特異的なSODの進化的意義に迫る、つまり、TcSOD6が昆虫種でのみ保存されている理由を明らかにする。そのために、不完全変態昆虫であるコオロギを用いて、RNAiによる遺伝子の機能解析を行う。これまでの研究によって、TcSOD6はコクヌストモドキにおいて、蛹期における変態時の神経の再編成に関与し、ノックダウンによって軸索形成に異常が見られることが明らかとなった。しかし、蛹期の無い不完全変態昆虫においても、SOD6が保存されていることが明らかとなった。変態における神経のダイナミックな再編成を制御するTcSOD6が、不完全変態昆虫においてどのような機能を有するのかを明らかにすることで、なぜ、昆虫種にのみSOD6が保存されているのか、哺乳類などの高等生物では失われたのかを紐解くことができる。 TcSOD6のタンパク質の特性解析を行うために、免疫沈降法によってコクヌストモドキ体液中のTcSOD6タンパク質を収集し、翻訳後修飾のパターンを解析する。これにより、TcSOD6が体液中に分泌される際に、どのような修飾を受けるのかが明らかになり、TcSOD6の分子的な機能がより詳細に明らかになる。
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