研究課題/領域番号 |
19J21974
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中塚 洋佑 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | 原始ブラックホール / 重力波 / 宇宙背景輻射 |
研究実績の概要 |
研究の目標である原始ブラックホールや初期宇宙現象の観測可能性について、本年度は主に以下のような成果を得た。 本研究のメインテーマである原始ブラックホールについて、昨年度に引き続きディラトンという粒子を仮定した原始ブラックホール形成モデルの論文の投稿作業を行った。また、この年に発表されたNANOGrav実験の結果を受けて新たな研究を開始した。NANOGrav実験の12.5年分のデータ解析結果によると、観測結果からは重力波のようなシグナルの存在が弱く示唆された。その結果を説明するためには、ある周波数帯でほとんど平坦なスペクトルを持つ重力波が必要になる。私は、以前構築したアクシオン型粒子を用いた原始ブラックホール形成モデルにおいて、そのようなスペクトルの重力波が生成可能か検証した。 また、アクシオン型粒子と初期宇宙からの光の相互作用についての研究を行った。現在の宇宙には、初期宇宙で放出された宇宙背景輻射と呼ばれる光で満たされている。宇宙背景輻射のゆらぎを測定することで、初期宇宙での様々な現象を調べることが出来る。アクシオン型粒子は光の偏光を回転させる相互作用を持ちうることが知られているため、宇宙背景輻射の偏光ゆらぎを精密に調べることで、アクシオン型粒子の痕跡を探索することが可能になる。本研究では、現在の観測的な制限から、アクシオン型粒子のパラメーターに対する制限を評価した。 またドイツのマックスプランク研究所の方とも共同研究を行った。研究では、初期宇宙の光の時間発展へのアクシオン型粒子の影響について、ボルツマン方程式を用いて数理的に計算した。本研究では、影響を受けた宇宙背景輻射のスペクトル形の変化を数値計算を用いて精密に評価した。そこから、宇宙の複屈折が引き起こす様々な特徴を議論し、将来観測での検証可能性を調べた。 以上から、本年度は幅広いテーマで研究成果を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
概要で触れたように本年度は複数のテーマでの研究を進めており、重力波を中心にして様々な方法で初期宇宙の現象を調べる研究を進めた。 原始ブラックホールに関連する研究について、本年度は最新のNANOGrav実験の結果を踏まえた理論モデルの研究を行った。私が以前構築したアクシオン型粒子を用いた原始ブラックホール形成モデルでは、生成される重力波のスペクトルが比較的鋭くなるパラメーターを用いていた。パラメーターを変えた場合に、既存の制限を回避しながら比較的平坦なスペクトルを説明するという問題に私は取り組み、結果として平坦なスペクトルを生成可能であることを確認した。 更に、宇宙背景輻射を通じたアクシオン型粒子の探索も行った。アクシオン型粒子の光との相互作用によって、宇宙背景輻射の偏光ゆらぎが影響を受けることは知られていたが、現在や将来の観測制限からアクシオン型粒子のパラメーターが制限される範囲は具体的に調べられていなかった。研究では、アクシオン型粒子の質量と光との結合定数などのパラメーターへの依存性を評価することで、現在の観測から制限されるパラメーターの範囲を計算した。そこから、将来の偏光ゆらぎの観測を通して、既存の他の実験では調べられないパラメーター範囲を探索することが出来ることがわかった。更に、マックスプランク研究所の方との共同研究により、数値的な計算で偏光ゆらぎへの影響の評価を行うことができた。これにより、偏光ゆらぎへの影響を精密に調べることで、アクシオン型粒子の質量に制限をつけられる可能性を議論した。 それ以外にも、重力波干渉計を利用した暗黒物質探索の共同研究にも取り組んだ。他にも様々なテーマでの研究を開始しており、次の結果につながる実りのある研究活動を行うことができた。 以上から、本年度では計画以上の成果を上げることができたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は博士課程の最終年度であり、2020年度から継続してきた研究を完成させることが目標である。 これまで進めてきた原始ブラックホールの研究を次のように発展させていく。まずは、ディラトンと呼ばれるスカラー場によるブラックホール生成の発展として、二形式場を用いたモデルを研究する。特に、二次的に作られる重力波の計算に注力したいと考えている。更に別のブラックホール生成モデルに関して、これまではブラックホールの生成は空間的にランダムであるという仮定を行ってきたが、一部の理論モデルにおいては空間的な相関が生じる可能性があり、それを定量的に評価する。それにより、ブラックホール連星合体の観測シグナルへの影響を見積もることが目的である。 更に、初期宇宙の観測量について研究の幅を広げるために、数値計算による宇宙背景放射の研究を行う。特に、WIMPと呼ばれる暗黒物質が存在したときに、それらの対消滅が宇宙背景放射に与える影響を調査したいと考えてる。対消滅の影響を調べる際には、宇宙背景放射に関わる物理の深い理解に加えて、適切な数値計算を実行する技術が必要になる。博士課程で得た知識を十分に活用して、この研究テーマを完成させる。 以上が2021年度の研究の大きなテーマであり、他にも関連するいくつかの研究を推進していく予定である。
|