研究課題/領域番号 |
19J22015
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
和田 直樹 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 結晶スポンジ法 / 合成生物学 / 生合成 / 天然物化学 / 単結晶X線構造解析 / テルペノイド |
研究実績の概要 |
ゲノムマイニングをはじめとする生合成研究のワークフローに結晶スポンジ法を組み込むことを目指し、2年目は新規テルペン環化酵素の活性評価および産物の構造解析を行った。紅藻Laurencia pacificaの生体試料からトランスクリプトーム解析を行うことで得られたテルペン環化酵素LphTPS-Cを出芽酵母BY4741株にて異種発現した。酵母の抽出エキスをGCMS分析にかけたところ未知テルペノイドの産生が認められた。単離精製を行った結果、4Lの培養液から得られた化合物量はわずか0.1ミリグラムであり、化合物の性質(油状かつ非結晶性)に鑑みても結晶スポンジ法による構造解析がもっとも効果的と判断された。本化合物は結晶スポンジへと容易に包接され、単結晶X線構造解析によりその化学構造が絶対立体配置を含め明確に構造決定された。本化合物の化学構造は新規であり、核磁気共鳴分光(NMR)法によって結晶スポンジ法とは独立に求めた平面構造式とも矛盾しないことが確かめられた。一方、本化合物は取得量がごく微量であったことから、NOESYスペクトルにおけるシグナル強度やS/N比は良好でなく、NMR法単独では立体配置の決定が困難であった。この結果は、これまで一般的に用いられてきたNMR法に加えて新たに結晶スポンジ法の活用を前提とすることで、生合成研究において酵素産物の構造決定に至るために必要な試料量や培養スケールを従来より数桁スケールダウンできると示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目では共同研究者によって調製された酵素産物を結晶スポンジ法に適用することが主であったが、2年目ではターゲットとする生合成酵素の選定、発現ベクター構築、酵母による異種発現および産物の単離精製、結晶スポンジ法による構造解析をすべて申請者が一貫して行えるようになった。その結果、実験における各工程間のタイムラグやスケールアップ検討にかかる期間が最小限に節約され、生合成酵素産物の構造解析を以前よりも迅速に達成できるようになってきている。2年目ではCOVID-19の流行により2ヶ月程度の実験停止を余儀なくされたものの、結晶スポンジ法の活用を前提とすることで化合物試料を調製する期間が短縮できている恩恵もあり、実験停止措置の影響は限定的であった。
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今後の研究の推進方策 |
2年目までに確立した知見に基づき、より多くの未知テルペン環化酵素の結晶スポンジ法を用いた産物解析に取り組む。産物の構造解析を達成した酵素LphTPS-Cの遺伝子配列をクエリとしてBLAST検索をおこなうことで、テルペン環化酵素と推定される未知の遺伝子配列を複数発見している。これらの異種発現手法や産物の単離精製手法はLphTPS-Cの場合と共通する部分が多いため、条件最適化にかかる期間は少ないと予想される。
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