研究課題
本研究では、PAF15が担う複製と連携したDNA維持メチル化の構造生物学的な解明を目的としている。今年度は、ユビキチン化PAF15とDNMT1の複合体 (①) と、PAF15を含む複製サイトで形成されるタンパク質-DNA複合体 (②) について解析を行った。①に関しては、単体で自己活性阻害型であるDNMT1が、ユビキチン化PAF15の結合によって活性化することを生化学的な実験で明らかにした。このことから、ユビキチン化PAF15の結合によってDNMT1の構造が活性型に変化することが示唆された。DNMT1の構造変化を明らかにするために、X線溶液散乱を行った。その結果、DNMT1単体と比較してユビキチン化PAF15が結合したDNMT1の慣性半径や分子の最大長が大きくなった。しかし、この増大が単にユビキチン化PAF15の結合に起因しているのか、ユビキチン化PAF15の結合に伴うDNMT1の構造変化に起因しているのかは不明であった。そこで、結晶構造を元にDNMT1に2つのユビキチンが結合したモデルを作製し、モデル構造から得られる溶液散乱データをATSASソフトウェア群を用いて算出した。これを複合体のX線溶液散乱のデータと比較したが、DNMT1の構造変化の有無については不明のままであった。②に関しては、複合体の再構成及びクライオ電子顕微鏡による測定を行った。解析の結果、複合体からDNAが解離してることが明らかになった。そこで、DNAポリメラーゼを新たなコンポーネントとして複合体に加えることで、複合体からのDNAの解離を防ぐことを考えた。DNAポリメラーゼの大腸菌での発現系の構築と精製方法を確立し、生化学的な実験から精製したDNAポリメラーゼが活性を有していることを確認した。
3: やや遅れている
①ユビキチン化PAF15の結合でDNMT1が活性化することから、単体で自己活性阻害型のDNMT1に構造変化が生じることが考えられた。しかし、X線溶液散乱のデータからはユビキチン化PAF15の結合に伴うDNMT1の構造変化を明らかにできていない。今後、分子動力学シミュレーションと組み合わせて解析を行うことで評価できると考えている。②当初計画していた複合体のクライオ電子顕微鏡単粒子解析の結果、複合体からDNAが解離していることが問題点として挙げられた。そこで、新たにDNAポリメラーゼを加えることで複合体からのDNAの解離を防ぐというアプローチに変更した。大腸菌で発現させたDNAポリメラーゼを高純度に精製することに成功し、DNAポリメラーゼ加えた複合体の再構成を行っている。
①全原子分子動力学シミュレーションでX線溶液散乱のデータを再現できるモデルを構築し、ユビキチン化PAF15の結合によるDNMT1の構造変化について解析する。②これまでの複合体にDNAポリメラーゼを加えたタンパク質-DNA複合体の再構成と、クライオ電子顕微鏡単粒子解析を行う。
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Journal of Molecular Biology
巻: 432 ページ: 4061-4075
10.1016/j.jmb.2020.05.006