研究課題/領域番号 |
19J22034
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山角 拓也 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 蛍光分子 / 光機能分子 / メカノフォア / 可視化技術 |
研究実績の概要 |
V字型から平面型への分子構造の変化に伴い蛍光挙動が変化する独自の分子群(FLAP)を、高分子材料における力学負荷の可視化のためのプローブ分子として利用するため、新たな分子設計・合成を行った。 従来のFLAPは、蛍光を示すもととなる剛直な部位としてベンゼン環が3つ縮環したアントラセン骨格を用いており、アントラセンの光反応性に起因する耐光性の低さに改善の余地が残されていた。そこで当該年度では、FLAPの耐光性を高めるためのアントラセン骨格への置換基の導入および従来とは異なる新たな分子骨格の合成の2つを目的として研究を行った。 ベンゼン環が一方向に複数縮環したアセンは、分子の長辺側へエチニル基を導入することで耐光性が向上することが知られており、FLAPでも同様の改善がみられると期待してエチニル基と高分子鎖へ導入するためのイミド骨格の導入を試みた。現時点で、鍵となる前駆体の合成に成功しており、さらなる合成検討を進めている。 新たな分子骨格としては、従来のアセン型とは環構造の繋がり方が異なるピレンイミド骨格を導入したFLAPの合成に成功した。溶液中では平面型由来の蛍光しか見られない従来型とは異なり、今回合成したFLAPは、溶液中でV字型と平面型の両構造に由来する蛍光を発する点に特徴がある。この特性は、ゲルのような溶媒を含む材料でも延伸に伴うV字型から平面型への構造変化を観測しうる点で、FLAPの張力プローブとしての適用範囲を広げるものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績にも示したように、当該年度では力に応答してV字型から平面型へ可逆に構造変化する独自の分子群(FLAP)の耐光性の向上を目指して新たなFLAP分子の合成検討を行った。当初想定していたアントラセンにエチニル基とイミド骨格を導入したFLAPの合成では、鍵となる前駆体の合成まで達成しているほか、ピレンイミド骨格を持つFLAPを新たに合成し、従来型にはない新たな蛍光特性を見出した点で、当初の研究計画以上に進展したと評価している。 特に、ピレンイミド骨格は溶液中でV字型および平面型に由来する蛍光帯が観測されたことから、従来のアントラセン骨格を用いたFLAPでみられた励起状態における自発的な構造平面化が部分的に抑制されていると考えられる。一方、類似のピレン骨格を用いた別のFLAP分子では構造平面化が完全に抑制されており、分子構造のわずかな違いによってFLAPの励起状態における平面化挙動が制御される点は基礎科学的に興味深い。また、溶液中で平面化しないFLAPは溶媒を含むゲルのような材料や高分子溶液中の高分子鎖に及ぶ力にも蛍光応答を示すと考えられるため、張力プローブとしての応用範囲の広がりにも期待が寄せられる成果である。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度では、ピレンイミド骨格を導入したFLAPの合成および実験的な光化学特性(吸収・蛍光スペクトル)の測定を行ってきた。今後は、溶媒を変えた際にこれらの特性に変化がみられるのかを中心に基礎物性に関する実験を継続するとともに、コンピュータを用いた量子化学計算によって一連のFLAPの励起状態挙動がどのような構造的特徴に由来するのか系統的に理解することを試みる予定である。このような構造と光物性との相関についての知見が得られれば、これまで範囲が限られてきたFLAPの蛍光波長を分子設計によって容易に調節できる可能性が広がり、光機能分子のプラットフォームとして利用可能になると考えられる。 また、溶媒が存在する環境でも張力プローブとして機能することを証明するため、FLAP分子を高分子ゲルへ導入し、引張に対するゲルの力学応答試験と蛍光スペクトル変化の同時測定を行う予定である。
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