研究課題/領域番号 |
19J22073
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
杉山 真弘 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 有機薄膜トランジスタ / ポテンショスタット / フレキシブルセンサ / 酵素電極 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究課題である「フレキシブル汗測定回路」と「フレキシブルな酵素電極の開発」について、以下の成果を得た。 (1)フレキシブルなポテンショスタット回路を実現 前年度までに開発・最適化した、CMOSオペアンプ回路、薄膜抵抗素子、薄膜キャパシタ素子のすべてを、厚さ1~2マイクロメートルの薄いプラスチックフィルム基板上に集積することで、完全にフレキシブルなポテンショスタット回路を実現した。回路の性能を評価したところ、3極式電極への電圧印加と電流応答の電圧変換という2つの機能を有していることが明らかとなり、汗の計測に向けたポテンショスタット回路としての基本的な性能を確認した。 (2)有機薄膜トランジスタの汎用的な高性能化に成功 上述(1)の通り、汗測定に資するCMOS回路を実現したが、電流の測定レンジや増幅特性の向上には、有機薄膜トランジスタ自体のさらなる高性能化も必要である。そこで本年度では、トリプチセン分子を用いたトランジスタ絶縁膜の表面改質を実施し、様々な有機半導体の電界効果移動度を汎用的に向上させることに成功した。低分子の有機半導体を用いたトランジスタにおいて、トリプチセン分子を修飾しない場合と比べて、移動度が最大20倍向上することが明らかになった。 (3)フレキシブルな酵素電極を実現 酵素電極に必要な3極式電極を、印刷プロセスを用いてカーボンペースト・銀/塩化銀ペースト・ポリマー溶液を厚さ1~2マイクロメートルの薄いプラスチックフィルム基板上に集積することで実現した。酵素の固定については、材料・プロセスの最適化により、安定して酵素を電極上に包括固定することに成功した。これにより前年度までの課題であった、酵素電極の再現性と溶液安定性について解決した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高齢者や病気予備軍の人口が増大する現代において、皮膚に貼り付けて生体の化学情報を長期間モニタリングできるウェアラブル化学センサの必要性が高まっている。本研究は、化学センサと測定回路を柔軟性に富んだプラスチックフィルム上に作製するプロセスを開発することで、肌に貼り付けて汗に含まれる様々代謝物の濃度を連続測定することを可能にするウェアラブルバイオセンサの実現を目指している。 2020年度は、2019年度までに実現したフレキシブルなCMOS素子・抵抗素子・キャパシタ素子を統合し、同一の基板上に集積するプロセスを開発することで、化学センサを駆動・測定するためのポテンショスタット回路を計画通り実現した。回路の特性を評価したところ、電圧印加と電流電圧変換という化学センサに必要な機能を有していることが明らかになった。 化学センサについては、2020年度は印刷プロセスによる酵素電極の形成を実現した。具体的には、カーボンペースト等の材料をスクリーン印刷などの塗布プロセスを用いることで、フィルム基板上に効率よく形成することに成功した。さらに2019年度までの課題であった、酵素の安定的な固定化法については、材料の最適化と固定方法の選定により、汗などの溶液に対して耐性のある酵素固定化法を実現した。 以上の取り組みおよび成果により、最終年度である2021年度において、おおむね計画通り、フレキシブル汗センサの実現に向けた化学センサと有機測定回路の統合を実施できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度 (2021年度) は、今年度までに実現したフレキシブルな酵素センサと有機ポテンショスタット回路を統合し、完全に柔軟なバイオセンサ・システムを同一の薄膜基板上で実現する。さらに、有機薄膜トランジスタやキャパシタ等の素子レベルの高性能化も同時に行い、ポテンショスタット回路のさらなる性能向上にも注力する予定である。また、汗に含まれる化学物質をより高精度に測定することを可能にするデバイスの実現を目指し、酵素センサの検出限界濃度やダイナミックレンジなどの特性を詳しく調べ、安定性・測定精度・再現性に優れたバイオセンサの開発を試みる予定である。 以上の取り組みにより、人の肌に貼り付けて運動中の汗を測定する実証実験を実施し、最終目標である人の汗に含まれる化学物質の濃度をリアルタイムに計測可能なウェアラブルバイオデバイスを実現する予定である。
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