研究実績の概要 |
上皮間葉転換(Epithelial-Mesenchymal-Transition:EMT)は、がん転移や抗がん剤耐性などがん悪性化に関与することが報告されている。本研究の目的は、がんEMTにおける代謝機構とその役割を明らかにすることである。これまでに、トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor:TGF)-βでEMTを誘導したヒト肺がん細胞のメタボローム解析とトランスクリプトーム解析を行った。その結果、代謝酵素遺伝子の1つであるProlyl 4-Hydroxylase Subunit Alpha 3(P4HA3)の増加を介して、アミノ酸濃度が変化することを見出した。また、P4HA3遺伝子をノックダウンした肺がん細胞のゼノグラフト実験で、転移と腫瘍増殖が抑制されたことから、P4HA3遺伝子が、EMTを介してがん悪性化に対して促進的に働くことが示唆された。そこで、本年度は、P4HA3単体の発現が、EMT誘導するかについて検討した。 P4HA3単独の発現増加がEMT誘導に十分であるか検証するため、強制発現細胞を作製した。ヒト肺がん細胞株A549およびHCC827にPiggybacベクターを用いて、ドキシサイクリン依存的にP4HA3を発現する細胞株を樹立した。ドキシサイクリンを添加し、qPCRとウエスタンブロッティングで、EMT関連遺伝子(CDH1, CDH2, FN1, MMP2, およびMMP9)の発現を調べた。その結果、両細胞において、ドキシサイクリン添加でP4HA3の発現が増加した一方で、EMT関連遺伝子の発現は変化しなかった。このことから、P4HA3はTGF-βによるEMTの代謝変化を制御するが、P4HA3単体の発現はEMT誘導に十分ではないことが示された。
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